其ノ陸 遠方にて

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親友の井原美菜の結婚式前日、私は結婚式が行われる場所へ向かうために家を二日ほど家を空けることになった。 移動に数時間かかるということで前日に現地入りしてホテルで一泊することになったのだ。 「忘れ物はないかい?」 「はい。新幹線のチケットもちゃんと持っています」 「そうかい。じゃああそこに置いてあるのはなんのチケットだろう」 「え……あっ!」 弥ノ助さんに指摘された場所を見ると特急券が置かれていた。 「乗車券だけじゃ新幹線には乗れねぇな」 「……ですね」 あははっと笑って誤魔化しながらも私がテンパっているのは弥ノ助さんにはお見通しの様だ。 「はぁ……心配だねぇ。ちゃんとひとりで行けるのかい?」 「だ、大丈夫ですよ。子どもじゃないんですから」 「まぁそうなんだがね。分からないことがあったらすぐに車掌さんに訊くんだよ」 「……はい」 思いっきり子ども扱いされて悔しいやら恥ずかしいやら色々複雑な思いが私の胸に渦巻いたけれど、実際問題今回に限っては子どものようなものなので何も言い返せない。 実は新幹線にひとりで乗って遠方に行くということが初めての私。 新幹線の切符を買ったことがない私は切符の購入から宿泊先のホテルの手配など全てを弥ノ助さんにやってもらった。 そして私はこの日のために新幹線の乗り方やホテルや結婚式場までの道のりを何度も確認して頭に叩き込んだ。 (大丈夫! いざとなったら救済策はいくらでもある!) なんて不安な心を隠す様に意気込む数日間を過ごして迎えた今日だった。
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