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そして不安なことといえばもうひとつ。
私は玄関先まで見送りに来てくれている弥ノ助さんをジッと見つめた。
「ん、どうした?」
「弥ノ助さんこそ大丈夫ですか?」
「何が」
「私がいなくても大丈夫ですか?」
「──は」
一瞬ぽかんとした表情を見せた弥ノ助さんはすぐにプッと破顔した。
「笑い事じゃありませんよ。私がいないからって【ときわや】へ入り浸らないでくださいよ」
「……あぁ、そっちの心配かい」
「そっちの心配です。衣食の心配はしていません。私がいない間は冷蔵庫に入っているおかずをチンして食べてください。タッパーに日付と朝昼晩を記入していますから」
「おおぅ、ありゃ分かり易くていい」
「ご飯は炊けますよね? お味噌汁も私がいない間はインスタントで我慢してください」
「はいはい」
「それと着替えも順番に置いてあります。洗濯はしなくていいです。私が帰ってからまとめてしますから」
「やれやれ……至れり尽くせりだねぇ」
「当然です。私の事情で弥ノ助さんには不自由をかけてしまうんですから」
「──里咲」
「っ!」
いきなり弥ノ助さんが私を呼び捨てにした。滅多にないことに心臓が大きく高鳴った。
「そういうことを言うんじゃない」
「……え」
「私の事情とか不自由とか──俺はそんなことを不満に思っていない」
「……」
真剣な弥ノ助さんの顔に盛大なるときめきとほんの少しの畏怖を感じた。
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