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「君はもっと自由に生きなさい」
「……」
「俺に気兼ねなくやりたいことをやって行きたい処へ行ってそして──」
「……」
「……」
「…そして……なんですか」
「……今の生を謳歌しなさい」
「!」
弥ノ助さんのその言葉はやけに大きく私の心の中を席捲した。
(弥ノ助さん……やっぱり心の何処かでは私のことを)
弥ノ助さんと結婚してからなんとなく燻っていた蟠りがひょっこり顔を覗かせたような気がした。
でもそれは私が言い放った不用意な言葉によって引き出されたのだろう。
(あぁ……失敗した)
言うべきではなかったのだ。『不自由』という四文字は。
「……ごめんなさい。弥ノ助さん」
「いや、俺は別に怒っているわけじゃ」
「分かっています。私が過保護過ぎました」
「──へ」
「弥ノ助さんはひとりの時が長かったんですから大抵のことは出来ちゃいますよね」
「……おぅ」
「それを失念していました。だったら心配はひとつだけ。くれぐれも忠司さんや良子さんに迷惑かけないように」
「なんだよ、迷惑って」
「暇だからってお店に行って長居しないでくださいという意味です。分かりましたか?」
「……はいはい。肝に銘じておきますよ」
「よろしい」
分かり易い話のはぐらかし方をしてしまった自覚はあるけれど幸いにも弥ノ助さんはそんな私のはぐらかしに乗ってくれた。
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