16人が本棚に入れています
本棚に追加
銀座の画廊 2
7階に戻ると、エレベーターの前で黒いコートの女性とすれ違った。長い黒髪に眼鏡をかけたその女性の残り香がエレベーターの中の狭い空間を満たしていた。1階のボタンを押して、来る時には1階があることに気が付かなかったのだと思い、少し不思議な気がした。
1階で降りると、目の前に開かれたドアがあり、正面は工事中の隣のビルの壁がすぐ目の前に迫っていた。一人通るのがやっとのその、隣のビルとの狭い境界を通って右手の表通りに出た。人気のないその通りは、普段の知っている銀座とは違っているように思えた。少し歩くと、黄色い髪に青い目をした少女が、もうみんな待ってるよ、と呼びかける。
みんなって、誰の事かと訝しげに思い、少し目を凝らすと、川岸の上で懐かしい人の顔が2,3見える。誰とはハッキリ思い出せないのだが、何故だか懐かしい気持ちになり、川岸に並んで腰かけ、ビールを飲みながら空を見上げる。昔ばなしに花が咲き、大声で笑いながら、ふとこんな事はもうないのだなあ、と思う自分に気づく。見上げた空には、いつの間にか無数の星が光る。空一杯の星をみながら天の川かな、などと言いながらいつの間にか、夜空になっていたのだなと思い、友人の顔を見ると、見知らぬ老人の顔をしている。
そうかと思うと、星の光と思っていたものが、無数の窓の明かりになり、天の川は、天の端から端まで続く巨大な船になる。船からはタラップが伸びてきて、地上に着くと大勢の人々がにこやかに笑いながら降りてくる。すると、あれは皆死んだ人だ、と誰かが言うのが聞こえる。そんなはずはないよ、と思い降りてきた人と、握手をする。ほら、こんなに暖かく柔らかい手をしている、生きているんだよ、と言って振り向くとそこにはもう誰もいなかった。
大勢の人と共に、幾千頭の馬と、立派な角をした鹿が下りてくる。そして、それに続いて、大きな棺を担いだ人々が通り過ぎる。人々は、復活の時が来た、大王様の復活の時が来た、と叫んでいる。
棺の蓋が開き、中から牡鹿の角を被った人が立ち上がると、人々は大王様と呼ぶ。大王様は、また皆とあえて喜ばしいという。一本の路が天上に向かって空を押し広げると、牡鹿と馬がその路を駆け上がる。翼を持った鳥が何百と舞い上がり、バラの花々が天上から舞い落ちる。
その路を、大王様と従者たちが登ろうとする。
最初のコメントを投稿しよう!