銀座の画廊 1

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銀座の画廊 1

その日、迎えの船が来た日のことだ。  私は、銀座で絵を見ていた。その画廊の狭い入り口を入るとすぐに階段があった。ぐるぐると回って2階に上る。手すりは真鍮製なのか黄色く輝いていた。壁には、小さな額縁の絵がいくつかかけられていた。その内の一つは、青い背景にレモン色のおかっぱ頭の少女が、髪の間からぼんやりとにじんだ青い目でこちらを見ていた。空には黄色い月のようなものが浮かびその輪郭はやはりぼーっと滲んでいた。空の色は少し暗い藍色で雲のようなものが幾筋か輪を描くように浮かんでいた。  少女の体は少し違和感があった。まるで、体全体は背中を向けて向こう側を向いているのに顔だけがこちらを見ているような奇妙なねじれを感じさせた。 2階からエレベーターで7階に上り、そこで降りた。小さな部屋に入ると、麻で作られた薄いブラウスや、スカートがかけられていた。ほかにも、粘土でできた人形や、人形の暮らす家や、庭、それから和風と洋風の入り混じったビルが連なる街。その建物に取りつく様々な妖怪たち、などのオブジェ。 それらが、無造作に、あるいは雑然と置かれたように見えた。  部屋を出ると、廊下があり、その壁にも額が飾られていた。短い廊下の先に階段をのぼると、また部屋があり、いくつかの比較的大きめの絵が飾られていた。白い画布の中央を空へと駆け昇るように道が走り、その両脇には鳥が飛び立ち、その上をバラの花が舞う。中央の道を立派な角を持った牡鹿がかけてゆく。その絵のバラと牡鹿が私の記憶に残った。  部屋を出て廊下の先の突き当りには一段上がった小部屋にコーヒーサイフォンと思しきものがあり、その先の誰もいない屋上にはテーブルと椅子があった。屋上から銀座の街が見えた。その日はよく晴れた冬空で、遠く晴海のタワーまで見渡せた。
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