プロローグ

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プロローグ

合須(あいす)家は由緒正しい血筋を誇る 名門の執事一族だった。 明治の時代から続く古い家系図によると 特定の主人の一族に仕えるのではなく、 あらゆる要人のニーズに適応して教育した 『完璧な執事』を世に送り出していた。 完璧な給仕、完璧な指導、英才教育で矯正 されたカリスマ性、そして健気に主人を敬い 尊敬する、慎ましく美しく完全な執事。 金を持て余す要人は例え幾ら積んだとしても 合須家の執事を一人、身近に置きたがった。 血の濃い本家では噂によると「億」の金が いとも簡単に動いていたそうだ。 「要人の成功の影には合須家有り」という 言葉が合須家にとって誇りだった。 完璧で完全であることが何より大切だった。 なのてどんな無茶な要望にもイエスと答える 非の打ち所のない使用人を選出するためには 一族にも苦労する場面は多々存在した。 とにかく完璧、従順で美しいをモットーに。 それらに焦点を当て孫子を厳しく教育する。 今まで何度も外部の人間が合須家に憧れて 養子入りを志願したが、人生そのものを スケジュール化し、コントロールされる 息苦しさに耐えきれず常人は逃げ出した。 だが奇妙なことに生まれた時から合須家の 看板を背負う彼らは窮屈をあまり感じない。 何故なら。 不便な山奥で世間と隔離された彼らは どんなに理不尽な環境にも。 外部の人間には首を傾げる不思議な現象だ。 立派な執事になることを夢見て勉強する 幼い少年、音句(ねく)もまた幼心を刺激され 「ある疑問」を問い続けることになる。 未来に瞳を輝かせ小さな彼にはまだこれから 待ち受ける壮絶な運命を、知るよしもない。
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