セピアの証拠写真[和泉和気荘]

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なぜ今頃この話をするのかと、思われるかもしれません。 じつは私は病に侵され、医者に余命数ヶ月の宣告を受けてしまいました。 最初はショックで何も考えられませんでしたが、ようやく落ち着いて死への覚悟ができたとき、残りの人生を身辺整理に使うことにしました。 その時、古いアルバムに挟まれたこの写真が出てきたのです。 若気のいたりとはいえ、あの時は大変すいませんでした。 心残りを整理しようとしたとき、あなたへの謝罪の気持ちが浮かびました。 許してください。 あの時は本当に申し訳ありませんでした。 私は私の死をもって償いたいと思います。 読み終わって、しばらく動けなかったが、突然手が震えだした。いや違う、身体が震えているのだ。 「ふざけるなっ」 思わず声が出た。 文面から察するに、見知らぬヤツに小遣い程度のカネをもらって遊び半分にやっておいて、それで人の人生をぼろぼろにしておいたのに、何十年も知らん顔しておいて、自分が死にかけたから、ついでに思い出して自己満足の為に贖罪だと。 自分勝手にもほどがある、どこまで人をコケにしたら気がすむんだ、ヒトの人生を馬鹿にしやがって。 運が悪かったと思い、俳優を辞め、転々と職を変えて、浮き草のようなくすぶった人生をおくっていたが、いま心のなにかに火が着いた。 安アパートで炬燵にこもっている場合じゃない、鬱々としている場合でもない、私をこんな目にあわせた差出人の女と、私を嵌めたヤツを見つけ出して、復讐しなければ。 セピア色の写真に対して、私の心は鮮やかになってきた。 封筒には差出人の住所も名前も無い、手がかりはこの写真だけだ。 普通なら諦めるだろうが、私には数々の職歴と人生経験がある。 私なら出来る、かならず見つけ出してやる。 元アイドルにして役者の素人探偵 安田尊(やすだたける) 通称アンディ 彼の手がける最初の事件が、いま始まる。 ーー 了 ーー
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