セピアの証拠写真[和泉和気荘]

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 古びた写真が送られてきた。  電子メールが普通になってきたこのご時世に珍しいなと思いながら封を開けると、中味は古びた写真だった。  写真を手に取り見ると、私の顔は険しくなる。 そこには、若い女性が街中で男に追いかけられて、コートを引っ張られて襲われているシーンが写っていた。 男は若い頃の私である。 そして身に覚えもある。 「なんでこんな写真を今頃……」 2020年、レイワに入って最初の元日に、40年前の、忌まわしい記憶が甦ってきた。  1981年、ショウワ56年。当時の私はデビューして間もないアイドルだった。  グループでデビューして、歌番組やバラエティー、当時はお笑い番組か、たくさん出演して人気絶頂だった。 目が回る忙しさだったが、手応えがある充実した毎日だったな。  やがて人気が陰りはじめ、グループの誰と誰が人気があって誰と誰が無いとはっきりしてきた。 当然のように格差が生まれ、当然のように亀裂も生まれてきて、解散することになる。  私は人気のある方だったから、解散後も事務所がプッシュしてくれたので、俳優として新しい道を進んだ。  大手の事務所だったから、色んなジャンルの芸能人が所属していたので、私は先輩俳優に挨拶に行き、これからどうしたらいいかのアドバイスを教えてもらった。 「役者ってのは色々な役がまわってくるかもしれない、だからどんな役でもやれるように、普段から馴れておきな」 「具体的にはどうすればいいんでしょう」 「俺が鍛えてやる、一人前の役者にしてやる」 「お願いします」 先輩俳優は手取り足取りどころか、微に入り細に入り教えてくれて、私は自分でもわかるくらい役者としての実力をつけていった。 元人気アイドルの肩書のおかげで、早くから脇役か準主役、もしくはゲスト俳優の役をもらって、俳優としての知名度はどんどん上がっていき、ついには主役をはるようになった。 そんな頃、私に彼女ができた。 作品名は忘れたが、二人で殺人鬼に追われる役で、今思えば吊り橋効果的なものもあったのだろう。私達は恋に落ち、プライベートでもつきあうようになり、将来の約束もかわす間柄にもなった。 順風満帆だった。そんな私にある日、師匠ともいえる先輩俳優から舞台演劇への誘いがきた。 「録りだけじゃなく生の舞台を経験しろ、そうすれば役者として、さらにひと皮剥ける。お前ならやれる」 そう言われてドラマ出演を減らし、少しずつ舞台の仕事を増やしていった。
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