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久しぶりに会った友人とその彼女を連れて夜の街をぶらぶらとしながら彼らのいきさつやら地元であった出来事なんかを話ながら楽しい時間はあっという間に過ぎて、その日俺は仕事明けだったこともあってか夜が深くなる前には俺の部屋に戻っていた。
俺の部屋はお世辞にも広い部屋とはいえず、三人も入れば少し窮屈になるくらいの大きさしかない。とはいえ、当時パイプベッドを寝床としていた俺は女の子特有の甘い香りなんて全くしない、自分の匂いの染み付いたベッドに一人登るとその下で身を寄せ合うようにして眠りにつこうとする二人を見ながらそっと部屋の明かりを落とした。
真っ暗な部屋の中で目を閉じると、仕事疲れもあってかすぐにうとうととしだす。
ああ、これはすぐに眠れそうだな。そう思いながら下にいる二人のことを思う。二人は俺が寝ていると思っているようで、わずかに聞こえる甘い愛の囁きがひそひそとまるで内緒話のように聞こえた。
ま、あとは二人仲良くやってくれや。俺は一足先に眠るとするよ。
そうしてかろうじて保っていた意識をそっと手放そうとした──その時だった。
「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
真っ暗な闇の中で聞こえた悲鳴とも叫び声ともいえない声に俺は跳ね起きた。その拍子に天井に頭をぶつけた。だが、そのかいもあってうとうとしていた意識はすぐに引き戻され、慌てて部屋の明かりを点けた。
パイプベッドから見下ろすとそこには泣きじゃくる彼女と必死にそれを宥めている友人の姿。俺は一言「何があった?」と尋ねると彼女のほうはふるふると首を振るばかりで、友人のほうもなにがあったのかわからない様子。
その時、俺は大方虫でも出たのだろうと思っていた。古い家だし黒い円錐形の物体もしょっちゅう見かける。季節も夏ということもあって活発に動き回っているみたいだしな。けれど、彼女の答えはそんな生易しいものではなかった。
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