死期

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 俺の地元には人が死ぬ日がわかる人がいる。といってもいつ何処で何時に亡くなるとかそこまで正確なものじゃないけど、亡くなる大体一週間前くらいにそろそろかなといったレベルのものらしい。普通の人からすればそれだけでも十分すぎるほどのものだと思う。  その人──本名は明かせないのでヨシエさんとしようか。そのヨシエさんに人の死ぬ日、つまり死期がどのように見えるか聞いたことがある。俺のイメージではその人の頭の上に数字みたいなものが浮かんでいるとかそんな漫画のようなことを思っていた。しかしヨシエさんによると、その人が亡くなる日が近づくとよくわからないものが見えるようになるそうだ。よくわからないものってなんだよって思うだろ? 俺も当たり前だけど同じこと思った。なんでもその人の家の屋根の上にいるんだそうだ。ヒトカゲが。  ヒトカゲっていうとまるでポケ○ンみたいだけど、きっと人影のことなんだと思う。ただヨシエさんが言うには、見えるものっていうのは人の影じゃなくて人の形をした煙のようなものと教えてくれた。それを説明するときに人の形をした煙のようなものって説明するのが面倒だったからそれをヒトカゲと呼んでいるそうだ。  ところでヨシエさんがそのヒトカゲを見るようになったのは結構前からのことらしく、子供の頃にはすでに見えるようになっていたそうだ。というのもそれを見ることになったのがヨシエさんが川で溺れたことがきっかけだったそうで、一度死にかけたことが原因で見たくなくても見えるようになったんじゃないかって聞いたことがある。  ちなみにここまでヨシエさんについて話してきたけど、ヨシエさんは俺の地元ではそれなりに有名な人だった。もちろんヨシエさんだけが見ることが出来るヒトカゲについても知っている人は多い。となると普通ならそんな人って割と敬遠されがちなんだろうけど、ヨシエさんは持ち前の明るさと人付き合いのよさからか彼女のことを悪く言うような人はほとんどいなかった。あくまでほとんどいなかったというだけで、少なからずヨシエさんのことを悪く言う人ももちろんいた。でもほとんどの人はヨシエさんの味方だった。  話を戻そうか。そのヨシエさんが見ているヒトカゲなんだけど、実は二種類いるそうで、それが白い煙のようなヒトカゲと黒い煙のようなヒトカゲだという。共通するのは人が亡くなる直前になるとそれらは亡くなる人の家の屋根の上に現れるということ。違うこととすれば白い方のヒトカゲはじっと立っていて、黒い方のヒトカゲは舞を踊っているようなよくわからない動きをしているんだと。  ある時俺は道端でジッと人の家の屋根を見上げているヨシエさんに会ったことがあったんだ。ちなみに俺はヨシエさんに嫌悪感の類は抱いていなかったけど、ちょっと怖いなくらいには感じていた。ただそのまま通り過ぎるのも失礼だしと思って、すれ違う際に「こんにちわ」と声をかけた。するとヨシエさんも快活に「こんにちわ」と返してくれた。ふとヨシエさんが見ているものが気になったので俺は声をかけた。「あのヨシエさん、もしかしてなにか見えてるんですか?」って。するとヨシエさんは俺がさっき話したヒトカゲについて詳しく教えてくれた。  ヨシエさんが見ていた家の屋根には今現在もヒトカゲがいるそうで(もちろん俺にはなにも見えない)ヨシエさんいわく、白い方のヒトカゲらしい。ヨシエさんの言葉が正しいならこの家の人の誰かが一週間以内に亡くなることになる。そういえばこの家にはもうかなり歳のいったお婆ちゃんが住んでいたからもしかしたらそういうこともあるだろうとしか思っていなかった。そしてその三日後にそこの家のお婆ちゃんが亡くなった。大往生だったとか。  その一件以来、俺はヨシエさんすげー! という気持ちとあ、怖いなこの人……という二つの相反する気持ちが強くなった。とはいえ、ヨシエさんはあくまで人の死期が見えるだけで別にその人に対してどうこうしているわけじゃない。だから怖がるなんてことは失礼に当たるはずなんだけど、まだ子供だった俺はそれ以上のことなんて考えられるはずもなく、それをそれとして受け入れていた。
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