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それからまたヨシエさんと話す機会があってその時に俺もやめとけばいいのにヨシエさんに「近々亡くなりそうな方とかいないんですか?」と馬鹿な質問をしてしまった。ヨシエさんは少し困ったような顔になり、でも誰かに聞いてもらいたいそんな風な様子で俺に教えてくれた。
「あそこに赤い屋根の家が見えるでしょ? あの家の上にいるの。……黒いヒトカゲが」
黒いヒトカゲ──。以前ヨシエさんに教えてもらったものだ。前に亡くなったお婆ちゃんの家には白いヒトカゲがいた。でも今ヨシエさんに見えているヒトカゲは黒いものだった。正直な話、ヒトカゲそのものが見えていない俺にとってヒトカゲの色の違いなんてわかるわけもないし、白いのと黒いものの関係せいもよくわかっていなかった。でもヨシエさんはその黒いヒトカゲを恐れているようだった。
「あの俺見えないんでよくわからないんですけど、黒いのってなんか良くないんですか?」
気になったのでその黒いヒトカゲについて聞いてみた。けれど詳しいことはヨシエさんもよくわからないみたいでうまく答えられないみたいだった。
その次の日、その家が火事で全焼した。
真夜中に真っ赤に燃え上がる炎を見て俺はヨシエさんが見たヒトカゲの話を思い出していた。ヒトカゲが現れるとその家の人が亡くなる。またしてもヨシエさんの言葉は的中した。
それからもヨシエさんはヒトカゲを度々目撃していたそうだ。もちろんそれを自分から言いふらすことはしていないみたいだったが、どこからか噂で聞こえてくるのを聞くたびにヨシエさんの予言は間違っていないんだろうと心の中で思っていた。
それから何年も経って俺が地元を離れる際、ずいぶん久しぶりにヨシエさんに会った。向こうも俺のことを覚えてくれていたみたいで、お互い見た目も身長も変わってしまったけどすぐに気づいてくれたようだ。
そこで俺は長い間ずっと考えていたことをヨシエさんに尋ねてみた。
「ヨシエさん、もしかして黒いヒトカゲの正体知ってるんじゃないですか?」
ヨシエさんはニコニコ笑ったままだった。
それから俺は地元には極力戻らないようにしている。別にヨシエさんにどうこうされるとかそういうわけじゃないんだけどさ、もしかしたら俺の家の屋根にいたら嫌だろ黒いヒトカゲがさ。
ここまで言ったらもうわかるよな。
黒いヒトカゲってのは……燃えて亡くなる人のことなんだよ。
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