午前0時の電話

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 これはとあるアパートでのお話。そのアパートは造られたからどれくらい建っているのかわからないほど古く、言い方を考えれば風情又は歴史を感じるし、思ったままを口にするといつ朽ち果ててもおかしくない、そんなところだった。そのせいか周辺の住民からは幽霊アパートなんて噂されているらしい。実際、住んでいる俺からみても幽霊の一人や二人出たところで驚くようなことじゃないと思ってしまうくらいにはボロいアパートだった。  じゃあなんで俺がそんなボロアパートに住んでいるかというと、立地条件がいいのとやはり家賃の安さだ。貧乏学生にとって家賃というのは生活していくためには何より重要なことで、それに付け加えて大学にも近いというはなによりも魅力的なことだった。  この辺りは大学が近くにあるため、学生用のアパートやマンションも多い。しかしそのどれも家賃が高い。というのも近年防犯意識の向上によるオートロックやら監視カメラなどのセキュリティ面であったり、高気密高断熱を売りにしたものに建て替えられていて、女子学生やそれなりに裕福な家の学生は進んでそちらのほうを選ぶことが出来るが、残念ながら俺のような仕送りもさほど期待出来ないような学生が住むには生活を切り詰めるか、バイトのシフトを出来る限り詰め込んで生活費を稼ぐかの二択に分かれる。そこで選んだのがこのボロアパートというわけだ。  ところでこのアパート立地条件の良さと家賃の安さはメリットであるものの、それ以外にメリットはない。デメリットはというと、夏暑く冬寒い、防音なんてものは存在しない、いつ崩れてもおかしくない、暗い、変な物音がよくするなどなど……、挙げたらキリがない。それでも雨風は防げないわけし、ほとんど大学やバイト先にいるのでいつも部屋にいるわけじゃないし、住めるだけマシと今ではすっかり割り切っている。  そんな俺のアパートなんだけど、ちょっと前からかな、おかしなことが起きるようになった。俺のバイトというのが飲食店なんで帰りはいつも夜遅くなるんだけど、大体家に着くのが日付が変わるちょっと前くらい。んで、家に帰ってからシャワー浴びて寝る支度してってやるんだけど、そうしているとどこからか電話が鳴るようになった。もちろん俺のスマホじゃない。隣の部屋からだった。それも毎日同じ時間に。  時間は午前0時。必ずこの時間ピッタリに電話の呼び出し音が鳴るんだ。最初はあまり気にしてなかったんだけど、それが毎日ってなるとさすがにちょっと迷惑というか気になってしまって、隣の部屋に文句でも言いに行こうかと思ったんだけど、夜遅いしなんか面倒なことに巻き込まれるのが嫌だし、疲れてるからすぐ寝てしまうしで結局放置することにしたんだ。  そしたらある日、俺の部屋の真上に住む人から苦情が入った。なんでも毎日毎日同じ時間に電話鳴らしやがって迷惑なんだよ! とのこと。それはこちらも同じだったし、なにより電話が鳴ってるのは俺の部屋じゃなくて俺の隣の部屋だ。そのことを言うと上の階の人はそんなことはない。なぜなら俺の部屋の隣はずっと空き部屋で誰も住んでいないからとのこと。実際、上の階の人は俺が引っ越してくる前からずっと住んでいる人らしく、どの部屋に誰がいるかなんかほとんど把握しているらしい。  それでも俺の部屋じゃないことは確かなので、食い下がるとじゃあその部屋に誰も住んでいないことを証明しようということになり、近くに住んでいる大家さんを呼んで俺の隣の部屋を見てみることになった。
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