午前0時の電話

3/3

615人が本棚に入れています
本棚に追加
/1423ページ
 大家さんが持っていた鍵束からその部屋の鍵を取り出し、ドアノブに差し込む。カチャンと音がしてドアを開けようとすると、どういうわけかドアが開かない。俺たちは不思議に思っていると、どうやら鍵は閉まっていたんじゃなくて、元々開いていたらしい。それを大家さんが鍵をかけてしまったようだ。  それを見てやっぱりこの部屋には人が住んでいるんだと俺は思っていたが、大家さんもここは誰も住んでいない空き部屋だと話す。なのに鍵が開いていたことに俺たちの間に緊張が走る。  誰かが知らない間に住み着いているかもしれないということに。  そこで警察を呼んでその部屋を一緒に調べてもらうことになった。不審者がいて大事になるのを恐れたからだ。本来なら俺と上の階の人はもう邪魔者でしかないはずなんだけど、ここまで来たら結末を見届けたいと思って一緒にいさせてもらうことを許可してもらった。  大家さんの許可を受けて警察官二人が部屋の中へと入っていく。そしてすぐに出てくるとどこかへ無線連絡をしていた。警察官の一人が大家さんになにか話していた。その場のただならぬ雰囲気になにかあったと確信めいたものを抱いていた俺は、説明を受け終えた大家さんになにがあったか尋ねてみた。すると大家さんは青い顔で「人が死んでた」と話した。  事件の顛末はこうだ。俺の部屋の隣の部屋の鍵がなんらかの理由で開いていた(誰かが開けたのかそれとも鍵の閉め忘れだった)そこへ浮浪者だろう人物がその部屋を寝ぐらにしていた。亡くなった人の持ち物は小銭が数枚と古いモデルの携帯電話。画面に圏外と出ていたことから電話としての機能は失われていたらしく、どうやら目覚まし時計代わりに使われていたそうだ。というのも、その亡くなった方の携帯のアラームが午前0時ピッタリにセットされていて、きっとその時間に起きて仕事にでも行っていたんだろうということだ。  その方が亡くなって時間が経っていたものの、冬場だったことで遺体の腐敗がそれほど進まなかったことと、隣に住んでいる俺がほとんど部屋にいなかったこともあって、隣の部屋に人がいることに気づかなかったというのも発見が遅れた原因だった。  流石にそんなことがあっては大家さんもいい気はしなかったみたいで、年数的にもちょうど頃合いということもありアパートを取り壊すことに決めた。もちろん俺たちも自然死とはいえ、後味の悪いことに変わりはなく、次の入居先も大家さんが紹介してくれたのでそれに従うことに。  部屋を出る日、大家さんと話す機会があったんだけど、ここで俺はさらに後味の悪い思いをすることになった。俺の隣の部屋にいた人は何にもない部屋の中で、隣の俺の部屋の壁にもたれかかるように亡くなっていたそうだ。よほど苦しかったのか、助けを求めるような風にして息絶えていたと話していた。  それにしてもよく隣の部屋のことがわかったねと聞かれたので、上の階の人から苦情がきまして、と返すと大家さんが一言。 「このアパートに住んでるのキミだけだよ?」
/1423ページ

最初のコメントを投稿しよう!

615人が本棚に入れています
本棚に追加