ゾッとする小ネタ集2(前編)

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 そんな楽器を担当しているものだから基本的に身動きは出来ない。なにせ人でぎゅうぎゅう詰めで下手に動くと楽器が人に接触してしまう恐れがあったからだ。それに体の真正面に楽器があるせいで腕の動かせる範囲もほとんどない。楽器を担ぐためのホルダーのせいで首もほとんど動かせない。要は真正面しか向けない状態だった。  そんな無防備な俺の背後になにやら気配を感じた。感じたといっても先ほど話した通りぎゅうぎゅう詰めになっているから誰がいてもおかしくはないんだが、異変はそこからだった。俺の尻に感触があった。それも撫で回すような感触が。  誰かが知らずに接触しているのであればまだ理解できるが、まさか尻を撫で回されるとは思ってもみなかった。後ろを振り向きたくても首がほとんど動かせないので誰がいるのか見ることが出来ない。それでもなんとか振り向こうとすると俺の肩越しに──金髪美女がいた。  ちなみに俺の身長は173センチと大体日本人の平均値辺りなんだけど、その金髪美女は多分180くらいあったんじゃないかな、俺より頭ひとつ上に顔があった。そして目が合うと「ハァイ」とにこやかに声をかけてきた。そしてグンッと今度は俺の尻を鷲掴みにしてきた。もちろん身動きが出来ないし突然のことで頭がパニックになっている俺はなにも言い返すどころか、無言でポカーンとしていた。  そうこうしているとその金髪美女は仲間の金髪美女に呼ばれてどこかへ行ってしまった。そのとき俺は悟った。  ……そりゃ日本勝てねぇわ、と。  もう二十年近く前の話だけど未だになんで俺の尻を撫で回した挙句、鷲掴みにしてきたのかはわからない。
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