振り返ってはいけない

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振り返ってはいけない

 こんな話を知っているか?  俺の通っていた学校には変わった噂話があった。噂話っていってもよくある怖い話とかの類だがな。  その学校にいくつかある階段のうち特定の階段を登っていると上から「おーい」と声をかけられる。きっと先生が呼んでいるんだろうと思ってさらに階段を上ると次第に階段の上に立っている人の脚が見える。「おーい、そこに誰かいるのか?」と声をかけられるので“いる”と返事をすると「じゃあそのまま上がってきてくれ」と言われる。  そしてそこからさらに階段を上ると……上半身のない下半身だけの姿の何者かの姿がそこに立っている。そこで慌てて逃げ出すとその下半身だけの何者かが追ってくる。逃げても逃げてもだ。そして追いつかれると「お前の体をもらうとするか」なんてよくありがちなオチがつく。ま、小学生の頃に流行っていた噂話だから滑稽に感じても仕方ないかもしれないな。  だが、俺がこんな話をしたのはどうしても言いたいことがあったからだ。彼らのように姿の見えないつまりは幽霊と呼ばれる類の者たちは人間だった。あくまで元・人間だがな。ただ、そんな彼らも自分がここにいるってことを知ってもらいたいって思っている。ほら、あんただってもし自分が誰からも気づかれなかったり、話しかけられなかったりしたら不安に感じたりするだろう? それと同じように彼らも俺らに訴えかけているんだ。  けれども、どんなことがあっても彼らの存在に気づいてはいけない。彼らは俺たちと仲良くしたいんじゃない。自分たちと同じ立場になってほしいと思っているから、自分の存在を気づかせようとする。だからこそ生きている人間より人間らしいと言えば人間らしいのかもしれないけどな。  なんにせよ、俺が言いたいのはどんなことがあっても彼らに対して返事をしてはいけないって事だ。ろくな目に遭わないから気をつけろ。
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