振り返ってはいけない

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 その日は部活が長引いたせいもあってか部活が終わった頃にはすっかり辺りは暗くなっていた。学校から出ると部の仲間が数人、外で談笑している姿が見えた。俺も少しばかり談笑に加わりながら彼らの話に耳を傾けていたが、時計を見ると短針が七時を指しているのを見てそれをきっかけにお開きとなった。  さて帰ろうか、と思って制服のポケットを探ってみたがいつも入っているはずの自転車の鍵が見当たらない。さしてお世辞にもいいとはいえない頭を回転させて思い起こしてみると、そういえば部室に鍵を置いてきたことを思い出した。  仕方ないと思いながら部室のある旧校舎へと戻る。俺の通っていた学校は新校舎と旧校舎に別れていて、当時、俺が所属していた部室というのがその旧校舎の三階にあった。暗い廊下を進んで階段を上り部室へと踏み入る。季節は春先だというのに妙にひんやりとしていたのを覚えている。  窓から差し込む月明かりがうっすらと部室内を照らしていた。部室に入るといつも俺が使っている机の上に目的の物はあった。相変わらずひんやりとした空気が気になったが目的を達成した今となればそれも些細なことだ。  早く帰ろうと思い踵を返す。だが、鉄製の重い扉を開こうとしたところで“それ”は聞こえた。 『……待って』  と。
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