幼馴染

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 そこは俺が生まれて間もない頃に引っ越してきた一軒の古びたアパートだった。  生まれて間もない頃から住んでいるということもあってか、俺にとってはそこが世界の全てでそこであることが当たり前になっていた。  だからこそ、そこで何が起きてもなんら不思議には感じなかった。  例えば……そうだな、落ちるはずのない場所から物が落ちてきたら不思議に思うだろうか?   まぁ、普通の人なら不思議に思うだろう。  だが、俺にはそれが当たり前だった。本来ならば落ちることのない場所から落ちてくる物。普通の人なら見えざる力が働いて……とか思うのだろうが、生憎と俺には『きっと置き方が悪くて何かの拍子に落ちたのだろう』程度の認識しかなかった。  だからこそ、ゼンマイが切れているはずのオルゴールが急に鳴り出したり、一人で家にいる時に玄関のドアノブがガチャガチャと鳴っても、朝起きたら開いているはずのない襖がわずかだが開かれていてもなんら不思議には……いや、思ったこともあった。だが、その全ては祖母によって解決されてきた。  まずオルゴールだが『きっと何かの拍子に残っていたゼンマイが動いたのだろう』ということで解決した。  ただそのオルゴールが動いたときに、心霊番組を見ていたというのはきっとタイミングが悪かったからなのだろう。  次に玄関のドアノブだが『風が強いからねぇ。そのせいだろう』ということで解決した。  ただドアノブは人が力を込めないとピクリとも動かない。ましてや、風程度で動くとは到底思えないのだが、当時の俺にはそれで十分だった。
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