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自身の流儀
隣の女性は涙を拭い、
「すいません、『双桃』は持っていますか?」
「『双桃』、刀なら今は鬼に取られて、しかし何故その事を・・・」
桃子は考える。刀の名前はお爺様おばあ様、そして兄しか知らないはずと、
「刀を取り戻し『桃源郷』へおゆきなさい。さすれば傷付いた体も治ります」
「桃源郷?」
そのあと女の人はこれ以降なにも語らず黙ってしまう。
「どうした桃子?」
「女性の方が、『双桃』を持ち『桃源郷』に向かえば傷が治る、と」
「『桃源郷』?」
「オイラも解らねえ」
「『桃源郷』って理想郷の事かしら?」
「へ~」
「それと仙人が住む場所、仙郷という意味もあるな」
涼と飛竜の言葉に、
「場所を探せと言う事なのでしょうか、兄」
腕を組み瞑想するが、
「解らぬ、だが何をするにしてもここで生き延びなければ始まらん」
「兄・・・」
様々な考察をする桃太郎一味、しかし死んでしまえば何も意味がない。
どうすればいいのか、桃太はただ『桃太郎』として責務を全うする事だけに生きてきた。
だがたどり着けば、自分の知らないことが、知らない世界があるんだと考えずにはいられず、『鬼退治』とはそもそも何なのかなど彼は生まれて初めて深く迷っていたのだ。
その事に桃子も気づいていた······。
卯三つ刻、僅かな小窓から日の光が射す頃に足音が、
「全員、目覚めたか」
赤鬼の夕陽だった。すると妹以外の皆が殺気だち兄が、
「赤鬼、桃子の言ったことは本当か?」
「ああ、本当さ」
彼女は目をそらさない。
「力を貸してくれ」
しかし彼は目をそらし、
「こと、わる」
「兄っ!」
「お前は黙っていろ」
少しの間沈黙し、
「・・・そうかい」
「夕陽さん、違うんです!」
「ほらよっ」
彼女は鍵を彼等に向け投げ捨てる。
「え、どうして?」
「あんたはあたしの話を聞いてくれた。それとっ、こんなやり方は自身の流儀に反するんでね、それだけだ」
「夕陽、さん」
「変なこと話して悪かったな、後は好きにしな」
そう言って立ち去る赤鬼が寂しそうに見えた桃子。
「兄、どうして?」
「······行くぞ」
淡々と準備する彼、
「どうしたのよ桃子」
「ちょっと待ってください!」
桃太は止まり、
「なんだ、早く」
「兄はもしかして、夕陽さんなら鍵を渡すと思っていたんじゃないですか?」
すると、顔が強ばる。
「······拙者達が生き延びるためにそうしたまでの事」
「鬼の方達と協力よりも、騙して脱出ですか」
「くっ、拙者らが死ねば鬼に支配されるそれでいいのか!」
「兄の言う『桃太郎』も地に落ちましたね」
「······刀を探しだし出るぞ」
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