鬼退治

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鬼退治

「ここまで育てて頂き、ありがとうございました」  お爺様とお婆様に土下座した。 「おー~、淋しいの~」  お婆様はそっとお茶を置き、 「そんなに焦らんでもいいのではないかえ?」 「いえ、自分自身で決めたことなんです。これは生まれた時から私の宿命ですから」  彼は頭を下げ決意を伝える。 「宿命か・・・桃太(ももた)ももう16じゃ、好きにするがええ、婆さんや」  お婆様はいつもの吉備団子(きびだんご)を用意して、 「気を付けて行きなされ」 「忝ない、必ずや鬼を退治て帰って参ります」  刀『双刀(そうとう)』を携え、いざっ、鬼退治の旅へと歩を運ぶ······。  鬼の住む島『鬼ヶ島』。  行くだけならば家から真っ直ぐ下って砂浜から小舟で漕いで進めるがまず先に、キジ、犬、猿を仲間にしなければならない。なので迂回しようとすると、 「(あにぃ)!」  木に休む鳥が飛び立つほどの甲高い声、 「桃子(ももこ)」  彼女は桃太と双子で妹。お婆様が桃から開いた時そこにはきらびやかな双子兄妹の姿が。その双子に、男の子は『桃太』、女の子には『桃子』と名付けたのだ。 「兄、鬼ヶ島に向かうの?」 「ああそうだ、まずは仲間を集めにな」 「(わたくし)も行きます!」 「駄目だっ!」 「どうしてですか」 「鬼退治は本来男だけの仕事だ、桃子が行くことはならぬ」 「私だって今まで『桃太郎』としてこの時の為に修行を積んできました」 「ああそうだ、しかし······」  ササッ、僅かな草を蹴る音、 「何奴っ!」  二人は納めている刀を握る。桃子はさっそく鬼と感づき息を飲むと桃太が聞こえた方に走るとそこに、 「グワオーッ!」熊が茂みから姿を現す。  だが彼は怯むことなく刀を抜き「桃流(足掛け)!」立ち襲う熊はすかさず胸から地面に倒れ、 「桃子ー!」 「桃流(真っ向両断)」  刀を返し頭に峰打たれ熊は怯えたのかそそくさと逃げていった······。 「野生の熊だったか」 「兄、一緒に」 「先程も言ったがお前は女だ。戦いではなくせめて女性らしい幸せを掴んでほしい。お爺様やお婆様もそれを望んでいるはず、拙者も同じ願いだ」 「私はそんな事を望んでいないのに勝手です、女子(おなご)であっても立派な一人の『桃太郎』として努めてみせます」  桃太は眼を閉じ妹に答えず背を向けて行ってしまう。  彼女を想い独りを選んだ兄、唇を噛み締め見つめる事しか出来ないのかと自分の心に語りかける桃子。たとえ妹に嫌われようとも彼は竹やぶの中へと進んでいったのだった。 「兄のわからずや······」
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