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桃太郎と犬【前編】
双子の妹と別れた桃太はひたすら竹林を進んでいた。風が吹いて笹の葉が擦れる、その音を聴いてつい瞑想したくなるほど癒される響き。
気持ちの良いまま向かっていると、あっという間に一時が過た頃に、
「ワオォォーン」
「これは」
何処からともなく犬の遠吠えが、それと共に走る音があちらこちらに、彼は何時でも刀が抜けるよう身構える。
一匹、二匹三匹······八匹に囲い困れた。
「待てっ、拙者は」
事情を説明しようとしたら前の奥に毛が萎びて耳も垂れている年老いた柴犬が、
「その和装、『桃太郎』か」
「七代目桃太郎の桃太と申す。鬼を退治すべく仲間を集めに参った」
そう知ると周りの者達も警戒心を解く。
「これはこれは桃太殿、失礼をした。ワシはここの長老じゃ」
「では早速ですが長老殿、この中から一匹一緒に付いてきてくれる者はおりますか?」
「なら彼がよろしいでしょう、飛竜よ」
名を呼ばれると桃太の後ろに居た柴犬が、
「俺は飛竜」
「我々の中で一番頼りになる犬じゃ」
「そうですか、よろしく。あと、吉備団子だ」
「・・・こいつは受け取れないな」
「なぜ?」
「これっ、飛竜」
「長老、失礼ですが自分は認めたものにしか付いて行けません」
無礼と感じた長老は焦っている中、
「飛竜殿の言うことはごもっとも、ではどうしたら一緒に行ってくれるのだ?」
「さすが桃太郎、早い答えだな。なあに簡単な事さ、この竹林の場で俺を捕まえられたら団子を受け取ってやる」
「よかろう、承知した」
「桃太郎殿!」
「ご心配なく。長老とお仲間達はお帰りを、これはもう、拙者と飛竜殿の問題」
「桃太郎殿がそうおっしゃるのでしたら分かりました、ワオォォーン」
彼の言葉を聴いて遠吠えと共に去り一人と一匹だけが残された。
「本気で行かせてもらうぞ」
そう言い抜刀の構え、これは抜くわけではなくこの方が素早く動きやすいのだがその姿に、
「桃太郎、刀を使っても良いぞ」
「・・・万が一にもお主を斬るわけにはいかん」
「そうか、なら掛かってこい」
「だから鞘にさせてもらう」
お互いににらみ合うと緊張感を和ますかのように風が鳴り、そこに笹の葉が一枚ひらりと地面に着く。
「はっ!」
「むんっ!」
その瞬間、素早く横薙ぎに振るが飛竜はしっかりと目で確認して飛び上がり紙一重で避けた。
「なにっ?」
「犬の俺にははっきり見えたぞ」
決して手を抜いてはいないというのに言葉もでない。
「さぁ、捕まえてみろ!」
「さすが飛竜殿、見事な動き」
柴犬の彼は竹林のどこかに素早く逃げこんだ。桃太は刀を鞘に納め、絶対に捕まえてみせると彼も竹やぶをさがしだ。
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