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第一話
「ふわあ……」
神代芽羽は、リサイクルショップ「はけうえ庵」の奥の帳場で、大あくびをした。あくびが終わっても、黒縁眼鏡の奥の目は眠そうである。もともとこういう顏なのだ。髪は強い癖っ毛なのに半端な長さにしているものだから、全然形が決まらない。ベージュ色のダボっとしたセーターに、違うベージュのスカート。歳は二十歳前後だが、どうにもこうにも垢抜けない。
店内は狭い。そしてなんとなく薄暗い。棚には使用感のある家電製品や微妙なデザインの食器やバッグが並べられ、ラックには洋服がかかっている。これといって特徴のない、ふつうのリサイクルショップだ。
店の前の通りには、気持ちのいい秋の日差しが降り注いでいるが、通行人は少ない。ここは裏通りなのだ。
「はけうえ庵」があるのは、武蔵小金井駅前。東京駅から西に伸びるJR中央線の駅である。行政区画でいうと小金井市。人口約十二万人、桜で有名な「小金井公園」や、その一画にある「江戸東京たてもの園」といった観光名所もあり、住宅地としても人気が高い。住みやすいのは昔からだったようで、縄文時代や石器時代の遺跡がたくさんある。市の中ほどを東西に横切る崖があり、その下から出る湧き水のまわりに人が集まったのだ。この崖を、地元の人間は古い言葉そのままに「はけ」と呼ぶ。
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