第一話

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 リサイクルショップ「はけうえ庵」は、ちょうどその「はけ」の上にある。駅から見ると南側。バス通りはここから長い下り坂になるが、もともとの地形は崖である。バス通りから斜めの裏道に入って三軒目が「はけうえ庵」だ。戸口の上には古色蒼然とした木の看板。それだけ見ると、代々続く骨董店というおもむきだ。しかし、店頭のワゴンにはセール品のティーセットなどが並べられ、入り口のガラス戸には「不用品買い取りいたします」の貼り紙。看板とのギャップが激しい。  そのガラス戸が、カラカラっと開いた。 「ただいま」  覇気のない声で帰宅を告げたのは、黒い詰襟に金ボタンの学ラン姿の中学生男子、神代史宇(かみしろしう)。姉とは違ってサラサラストレートの黒髪。小顔で色白で黒目がちの、日本人形のようにかわいらしい少年である。  まっすぐに姉のところに向かって歩いてくるのは、慕っているからではなく、単に帳場の後ろに二階の住居へ続く階段があるからだ。 「ねえ、お姉ちゃん。この『はけうえ庵』ていう名前、やめた方がいいよ」  帳場を通りすぎるとき、だしぬけに史宇が言った。 「はあ? なんでよ。『はけ』の上だから『はけうえ』で、何にもおかしくないじゃん」 「そんなのわかってるよ。そういうことじゃなくて、母音が続くと海外の人はすごい発音しづらいんだって。はけ『うえあ』ん、って三つも続くじゃん」 「誰がそんなこと言ったの」 「英語の村井先生」 「ここに海外からの客なんて来たことある?」 「これから来るかもしんないじゃん」 「ぜってー来ねえ」
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