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リサイクルショップ「はけうえ庵」は、ちょうどその「はけ」の上にある。駅から見ると南側。バス通りはここから長い下り坂になるが、もともとの地形は崖である。バス通りから斜めの裏道に入って三軒目が「はけうえ庵」だ。戸口の上には古色蒼然とした木の看板。それだけ見ると、代々続く骨董店というおもむきだ。しかし、店頭のワゴンにはセール品のティーセットなどが並べられ、入り口のガラス戸には「不用品買い取りいたします」の貼り紙。看板とのギャップが激しい。
そのガラス戸が、カラカラっと開いた。
「ただいま」
覇気のない声で帰宅を告げたのは、黒い詰襟に金ボタンの学ラン姿の中学生男子、神代史宇。姉とは違ってサラサラストレートの黒髪。小顔で色白で黒目がちの、日本人形のようにかわいらしい少年である。
まっすぐに姉のところに向かって歩いてくるのは、慕っているからではなく、単に帳場の後ろに二階の住居へ続く階段があるからだ。
「ねえ、お姉ちゃん。この『はけうえ庵』ていう名前、やめた方がいいよ」
帳場を通りすぎるとき、だしぬけに史宇が言った。
「はあ? なんでよ。『はけ』の上だから『はけうえ』で、何にもおかしくないじゃん」
「そんなのわかってるよ。そういうことじゃなくて、母音が続くと海外の人はすごい発音しづらいんだって。はけ『うえあ』ん、って三つも続くじゃん」
「誰がそんなこと言ったの」
「英語の村井先生」
「ここに海外からの客なんて来たことある?」
「これから来るかもしんないじゃん」
「ぜってー来ねえ」
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