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 その昔、東北のさる国に不細工な嫁と住まう男がおった。  名を太吉と言って寝ても覚めても、せめて十人並みならなあと嘆いておった。  或る日、太吉は樵の仕事を中断して切り株に座って休んでおると、上空の巻雲が集まって厚い雲を形成して行き、辺りが段々と薄暗くなって来た。  それで俄雨に見舞われるのではないかと太吉が心配しておると、前方六間ほど先の鬱然と茂っておる草木から老人らしき者がひょっこりと姿を現し、そこから助走もなしに超人的にピョンと一飛びして太吉の目の前にやって来た。  こんな曲芸以上のことが出来るからには人間ではないのじゃが、見るからに風変わりな翁の姿をしておって頭がつるつるに禿げ上がっておる代わりに鍾馗髭をぼーぼーに生やしており、身なりは紅白の取り合わせが際立っておって白装束の上に赤いちゃんちゃんこを羽織っておる。何にせよ、妙ちくりんな格好であること夥しい。
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