1/2
1人が本棚に入れています
本棚に追加
/13ページ

 女は自分に酌をしてもらいながら酔いが進んで陶酔鏡に至った太吉を見て潮時が来たと秘かににんまりした。  自明のことじゃが、実はこの女は雪女で昨夜、太吉の家を訪れた際、お千代に向けて白く冷たい息を勢いよく吹きかけ、お千代を立ちどころに全身凍り付かせて殺してしまい、その亡骸を囲炉裏の火に当て服を溶かして脱がし、自分も脱いで白装束を経帷子として亡骸に着せ、自分はお千代の服を身に着けると、亡骸を外へ運び出すなり口から吹雪を出して冬山の向こうの遥か彼方へと吹き飛ばしてしまい、それを氷の微笑を浮かべながら見送って家の中へ入って来て引き戸を閉め、何事もなかったかのようにお千代が座っていた嬶座に腰を下ろしたと、まあ、こういう次第じゃ。そして雪女にとって太吉が完全に自分に心を奪われ、酒が程よく彼の体に染みわたった時、最も味わいのある男の精を吸い出すことが出来るからにんまりした訳で、「さあ、坊や、そろそろ私とおねんねしましょうね。」と雪女が言うと、太吉は子供のように嬉しくなって無我夢中で雪女に震い付いた。   すると、余りの雪女の冷たい体に太吉は震え上がって、コチコチに体が凍り付いて身動きが取れなくなってしもうた。
/13ページ

最初のコメントを投稿しよう!