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「見つけたよ、目障りな巫女たちめ。今度こそ消してあげるよ」
バッドエンドの妖魔ヒレーンが戦闘員レベルの使い魔テゴマーたちを連れて襲撃してきた。敵はかなり多く、ここをどう切り抜けるか姫花もミコルンも険しい顔をする。
こんな時に伝説の戦士プリキュアがいてくれたら・・。
「この地には暗黒エナジーが満ち溢れているではないか。好きな男とは結ばれず、大切な人も次々と失った井伊直虎こそ最高のバッドエンド。その悲しみ、恨み辛みは怨念となって暗黒エナジーを生み続けているのだ」
大地に眠る暗黒エナジーを身に纏ってヒレーンは更におぞましく凶悪な姿になっていく。
衣鞠はうつむいて拳を握りしめて震えている。初めてこんな怪物を見て恐ろしいのも無理はないと姫花は思った。
「早く、早く逃げなさい」
だが、衣鞠が震えていたのは恐ろしいからではなかった。
「直虎様のことをそんな風に言って汚すなぁ~っ!」
拳を握りしめてワナワナと震えていた衣鞠は溢れる想いを抑え切れずに飛び出してテゴマーたちを張り倒した。
「な、何なの、あのコ。まさか、まさか・・」
勇敢にテゴマーたちに立ち向かう衣鞠の姿に姫花は伝説の戦士のオーラを感じた。
「直虎様は、直虎様はね~」
テゴマーをぶん殴りながら衣鞠は井伊直虎のことを熱く語る。
直虎は好きな男とは結ばれず、自分は出家した。その好きな男は今川の策略で暗殺され、その後も大切な人を次々に失った。
正に悲劇の連続の人生だったが、そんな運命には負けず、好きな男が遺してくれた、やがては徳川四天王の一人となる井伊直政を立派に育てあげて井伊の家を守ったのだ。
直虎の頑張りがなければ、直虎がいなければ末代まで永く続いた井伊家はなく、滅亡していたであろう。
そんな直虎への想いを熱く語って衣鞠はテゴマーたちと戦う。
「あのコの魂に印籠が反応しているミコ」
伝説の戦士プリキュアに託されるべきアイテムの印籠が衣鞠に反応して光り輝く。
「間違いない、キミこそが伝説の戦士プリキュアだミコ。今こそ伝説の力を継承するミコ」
ミコルンに応えるかのように印籠は光り輝きながら衣鞠の手の中に飛んでいった。
「わっ、スゴい。よ~し」と衣鞠は印籠を振りかざしてポーズを決める。
姫花もミコルンも伝説の戦士プリキュアの登場を期待して見守るが・・。
「鎮まれ~、鎮まれ~。皆の者、この紋所が目に入らぬか。頭が高~い、控えおろう」
衣鞠は印籠を高らかに掲げるが敵は控えることもない・・。
「何、あれ?何をしているの・・」
姫花もミコルンも目が点になって衣鞠の行動に唖然とする。
「ちょっと、何よこれ。何も起こらないじゃないの」と衣鞠は不機嫌そうに印籠を見る。
「そうじゃないミコ。変身するんだミコ」
「まったく、何であなたみたいな人がプリキュアなのよ。あなたみたいな人を導くなんて頭が痛くなるわ。わたしがプリキュアになりたいぐらいよ」と姫花は不機嫌そうに頭を抱える。
「なりたいの?プリキュアに。だったらなればいいじゃない」
「話を聞いてたの?わたしは巫女、プリキュアを導くのが使命。そしてプリキュアに選ばれたのはあなたなのよ」
「いいじゃない。巫女だってプリキュアになったって。伝説ってのは自分たちの手で塗り替えていくもんでしょ」
「伝説は塗り替える・・わたしがプリキュアに・・」
今まで巫女として戦ってきて何度も力が欲しいと思ったことがある。だけどプリキュアを探し出して導くことが使命だと諦めてきた。それをこの衣鞠というコは巫女だってプリキュアになったっていいとか伝説は塗り替えるとか当然のように言い放つ。
「まったくあんたって人は・・あんたといると何だかワクワクしてくる。わたしもプリキュアになれそうな気がしてくるわ」
衣鞠と姫花は微笑みをかわす。
衣鞠の言葉と本当はプリキュアになりたいという姫花の想いに応えるように印籠は光り輝いてふたつに増えた。
「これはこうやって使うのよ」
姫花がポーズを決めて印籠をかざすとプリキュアの家紋が光り輝いた。衣鞠も姫花を真似て印籠をかざす。
「プリ変化」
変身の呪文を叫ぶと印籠からカモーンという音声がしてふたりは眩い光に包まれる。そして光の中でふたりは着物のような戦闘服を身に纏った戦士に変身した。
「うわはぁっ、スゴいよ。まるで井伊直虎様の着物みたいだ」
といきなりはしゃぐ衣鞠を見て姫花はため息を吐く。
「喜んでないでいくわよ」
「あっ、そっか」
光の中から敵の前にふたりのプリキュアが舞い降りてポーズを決める。
「温故知新、繋がる歴史、キュアヒストリー」
「古今東西、繋がる物語、キュアストーリー」
「勇者の力が今」
「我らプリキュアの手に」
衣鞠が変身したキュアヒストリーと姫花が変身したキュアストーリーがカッコよくポーズを決める。
「なんだと~、伝説の戦士がふたりも出ただと~。そんなのありか~」
こうしている間にもかなりのテゴマーをやっつけられたヒレーンは怒りと悔しさが入り混じったような眼でふたりのプリキュアを見る。
「印籠がふたつになってプリキュアもふたり・・ぶっちゃけありえないミコ~」
ミコルンもふたりのプリキュアが立ち並ぶ姿を見て驚いている。当のキュアストーリーだって自分が本当に変身しちゃったことに驚いて戸惑っている。
「みんな何を驚いているの。プリキュアがひとりなんて伝説はたった今終わったのよ。ふたりのプリキュアの伝説が今始まったのよ」
とキュアヒストリーは不敵に笑う。
普通は唐突にプリキュアとか言われて本当に変身しちゃったら驚いたり戸惑ったりするものだが、そんなことは全然なくさも当然のように受け入れて新しい伝説を始めようとしている。
こんな常識離れした人は初めてだが、その豪快な前向きさはキュアストーリーやミコルンをワクワクさせる。
「おのれ~。ひとり出ようとふたり出ようと叩き潰すのみ。殺れっ」
ヒレーンの合図で今度は武器を持ったテゴマーたちが襲いかかってくる。手にした筒からは火炎が吹き出してふたりを焼き殺そうとする。
「運命に抗った赤き鬼の力よ、我に力を」
キュアヒストリーの印籠に井の文字が表れてカモーンの音声と共に紅い鎧を身に纏う。そして烈火の如き早技でテゴマーたちを斬り捨てていく。その勇猛果敢な戦いから赤鬼と恐れられた若き徳川四天王井伊直政の力だ。
「まったくあんたって人は・・伝説はあっさりと塗り替えるし、たった今初めて会ったのにわたしはスゴくワクワクしている。一緒に戦いたいとドキドキしている。きっと弁慶の牛若丸に対する気持ちってこんなカンジだったのね」
キュアストーリーは弁慶のような虚無僧の姿に変わってスゴい力でテゴマーたちを叩きのめしていく。
「弁慶の力だけでいいの?あなただって牛若丸になったっていいのよ」
「そうね。なりたい者にはなった方がいいわね」
微笑みかけてくれるキュアヒストリーに微笑みを返すとキュアストーリーは今度は牛若丸のような姿になって軽快に飛んだり跳ねたりしてテゴマーたちをやっつけていく。
「おのれ~。だが、この地にはまだまだ怨念が眠っている。怨みを晴らすがいい、プリキュアを倒せ」
ヒレーンは大地に眠る怨念たちを魑魅魍魎として蘇らせた。
井伊の谷は武田軍の焼き討ちに遭ったこともある。また、浜松の地では徳川家康生涯の大敗北として語り継がれる三方原の合戦があり、徳川武田双方とも多くの戦死者を出した。
ヒレーンは無念にも死んでいった人たちの怨念を呼び起こして暴れさせているのだ。
「なんてことを・・無念にも死んでいった人たちの魂を悪用するなんて許せない」
無念にも死んでいき、やっと安らかに眠れているであろう人々を想ってキュアヒストリーは怒りと悲しみに涙を流す。
キュアヒストリーの涙に応えたように印籠の井の字が黒くなって光る。
「直虎様・・分かりました。次郎法師様の慈愛の心よ、我に力を」
カモーンの音声と共にキュアヒストリーは尼僧の姿になってお経を唱える。
出家して尼僧になった井伊直虎のもうひとつの姿次郎法師の力がキュアヒストリーに託された。
有り難いお経が魑魅魍魎にされてしまった魂を浄化していく。
「だったらわたしも浄化の力を使わせてもらうわよ」
キュアストーリーは大勢の僧や民衆を召喚して自らも僧になって大念仏を唱えて魑魅魍魎にされた魂を浄化していく。
多くの戦死者の亡霊の祟りなのか浜松には虫が大量発生し、謎の疫病が流行って次々に人が死んでいくという大災厄が発生した。
徳川家康は宗円という僧侶を招いて大供養を行い、その結果亡霊たちの魂が鎮められたのか大災厄は治まった。
これが現代まで語り継がれる浄化の力、遠州大念仏である。
「おのれ~、こしゃくな。こうなったら直線キサマたちを叩き殺してくれるわ」
ヒレーンは蜘蛛のような怪物に姿を変えて巨大化していく。
「あ、アイツだミコ」
その巨大な化蜘蛛は姫花とミコルンの御殿御輿を襲撃して墜とした化物だった。
「気をつけて、アイツに御殿御輿もやられたのよ」
「不気味で巨大で厄介な難敵ね~」
御殿御輿を襲撃した時のように巨大な化蜘蛛は自在に空を飛んで攻撃してくる。
喰らったらひとたまりもなさそうな巨大な爪、そして怪光線や蜘蛛の糸、プリキュアは窮地に立たされる。
「よしっ、わたしが空から攻撃してみるわ」
キュアストーリーは天狗の力を使って羽団扇で空を飛んで化蜘蛛を吹き飛ばそうとするが・・
「そんなものにやられるか~」
化蜘蛛は強烈な疾風にも堪えてキュアストーリーを攻撃する。
「あたしに考えがある。あたしを飛ばして」
「分かったわ、任せるわよ」
キュアストーリーは羽団扇でキュアヒストリーを扇ぐ。
「きゃは、飛んでる~、イケてる~」
風に乗ってキュアヒストリーは自在に空を飛んで化蜘蛛の攻撃を巧みにかわす。
そしてキュアヒストリーの印籠に片喰の家紋が光って巨大な太鼓が出現する。
「プリキュア大音撃、威風堂々」
キュアヒストリーは巨大な太鼓を打ち鳴らして音撃を化蜘蛛に叩き込む。
「ぐうう~っ、頭が痛い~」
音撃を浴びて化蜘蛛は苦しみ出す。
三方原の合戦で大敗北をした徳川軍は浜松城に逃げ帰るが、武田軍は浜松城にも攻め込もうとしていた。この窮地を救ったのが徳川四天王の一人酒井忠次。
酒井忠次は堂々と城門をすべて開け放ち、かがり火を轟々と炊いて太鼓を打ち鳴らした。まだ何か秘策があるのか、はたまた織田の援軍が到着したのかと太鼓に恐れおののいた武田の大軍は城の攻撃を中止して逃げていった。
大軍をも恐れおののかせた酒井の太鼓と語り継がれる伝説の力を借りての大技である。
「ぐうう~っ、おのれ~」
太鼓の音撃が体中に轟いて化蜘蛛は墜落していく。
「一緒に決めよう。今度はあなたが牛若丸になってよ」
「分かったわ」
キュアヒストリーは牛若丸の姿になって軽快に飛んで跳ねて化蜘蛛に斬撃を喰らわせ、キュアストーリーは弁慶の姿になって渾身の力技を喰らわせる。
「まさか、このわたしが敗れるなど・・これが伝説の戦士の力・・」
化蜘蛛はヒレーンの姿に戻って消滅していった。
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