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「別に。」直樹には意外な答えだった。 「あの大きさの柄なら彫る時には相当痛みが伴ったはずだよ。 驚くとか怖いとかより、そうまでして身体に刻んだなら相当な覚悟があるとしか思えなくて。もし彼女にも抱える絶望があるのならそれは僕にはひと事じゃない。 いずれ分かるなら触れずにおこうと思っただけだよ。」 浩哉の言葉は直樹にとっても救われるような緩衝だった。 「ヒロ…何だかんだ言ってもお前は寛容なんだな。」 「え?」 「詮索しない、勘繰らないって意外と誰にもできることじゃない。」 「何それ。僕だって二人に聞きたいことは山ほどあるよ。だけどさ、だけどそれを聞いても。」 「…どうした?」 「満足するか不満かで考えがちだけど、 巡り巡れば損なんだ。自分にとっても二人にも。全てを知ればいいってものじゃない。自己満足を百パーセント叶えようとする母親をいつも見てきたから反面教師だよ。」 直樹が軽くぷっと吹く。 「お前、やっぱりいい奴だな。」  話をしている最中に日はどっぷりと暮れていった。
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