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前章
栗毛色の肌が白い半袖姿の少年は病院の会計前の長椅子に座り、精算の順番がくるのを母親と待っていた。
外来は心療内科。自分に悪い箇所など全く無いと心は叫んでも、隣に座る母親は話に耳を傾けようともしないだろう。通院は母親の指示に従い渋々着いて行くだけなのだ。
担当医は患者である自分と話をしようとするが、必ず母親は診察に割って入り、口を挟む。問診でさえ少年の思うようには進まない。
毎回導眠剤と抗うつ薬を処方されるが、母親の前で飲むふりをしながらいつも後からトイレに流していた。この通院は母親にとっての精神安定剤なのだ。
「さ、会計終わったから帰るわよ、ヒロくん。ああ、でも私、ちょっと電話してくるからここで少し待っててくれる?」
「うん…わかった。」
母親が会計カウンターからそのまま外に出て、携帯電話でどこかへ連絡し始める。
少年は俯いたまま長椅子に座り続けて母親を待つ。
今日もこの後は学校に行かない。
後は母親と自宅へ帰るだけだ。
それが彼の日常だ。
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