第一章

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 それからしばらくして疲れ果て、腕の中でぐったりとしてしまった母さんを抱き抱えて寝室のベッドへと寝かせた。元々白い肌は血の気を失くしており、まだ雪の方が生を感じさせる程やるせなく思えた。  涙の跡を残した目元には大きな隈がはっきりと浮かんでおり、乾いた唇はカサついていて紫色に変色し、顔色のせいで一際目立っていた。  薄紅色のブラウスから覗く肌には骨や血管が浮き彫りになっていて、日に日に衰弱していっているのが目に見えて現れている。 「ごめんね」  そっと手を握れば薄い皮膚と硬い骨の感触が伝わってきて胸を不穏に騒めかせる。強く握れば壊してしまうような錯覚がして、優しく包み込むように触れる事しかできない。自分の母親だというのに。   「こう、や……ごめんなさい……」  涙を流しながら零された言葉に謝るのは俺の方だ。夢でさえ俺の存在は母さんの苦しめている。  いっその事俺の死を望んでくれたらいいのに。そうしたら、母さんも父さんも隆久も全員を解放してあげられるのに。  大切な人の不幸を見ていると、考えてはいけない事ばかりが頭に浮かんでしまうのを止められない。   「……愛してるよ母さん」  握っていた手を毛布の中に入れてそっと離した。母さんを起こさないように慎重に部屋を出た。  するとガチャリと玄関の扉が開く音がして振り返れば父さんが丁度帰宅してきた。疲労を滲ませた顔をした父さんも俺の方に気づくと、俺が両親の寝室から出てきた事に気づいて顔を曇らせる。こけた頬が普段から哀愁を感じさせるのに、益々酷い顔をしている。  俺のせいだ。   「遅くなってすまない」  ポタポタと玄関に染みを作る傘も置かずに重々しい声で謝ってきた父さんに首を振る。 「母さんは寝てるよ。やっぱり……見たみたいだったけど、俺が帰ってきた時はまだ家にいてくれた。ちゃんと約束を守ってくれてた」  父さんは母さんのいる寝室を見つめると暫しの間を空けて「……そうか」と短く返してくれた。その表情は硬いが、僅かだが目元がほっとしたように和らいだ。  ようやく傘を置いて靴を脱いだ父さんにおかえりなさいと告げれば、まだ表情は曇っていたがただいまと返ってくる。 「仕事で疲れてるでしょ。先に部屋で荷物置いたり着替えて着なよ。まだリビング片付けてないんだ」  家に入る前に聞いた物音からしてリビングは酷い有様だろう。無残に割れた食器、倒れた椅子。ズタズタに引き裂かれたカーテンなど、記憶に刻まれている見慣れた光景が頭を過る。  父さんもすぐに察したのだろう。自分がやると言い出すだろう父さんの背中を強引に押して部屋へと押し込める。扉が閉まる寸前、父さんの罪悪感に満ちた目を見た気がしたが素知らぬ振りをした。  
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