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「お前のせいじゃない。だから気に病むな」
「……お前はいつもそう言ってくれんね。ありがと」
話題を逸らしたりして素知らぬ振りはしない。しても隆久には通用しないからだ。それでも、隆久にしてみれば曖昧な返答だろうが。
すると、じっと俺を見据えていた隆手の手が伸ばされる。十分に届くその手を握ろうとすれば「違う」と言われて手を止めた。
「肌を晒すな。風邪を引く。今すぐ着替えろ」
「一応弁解しておくけど今着替えようとしたんだよ」
「早く」
隆久の目が細められる。カーテンを開けた時に見せたのは服のせいだったと気づく。さっさと着替えなければ本気で怒りだすだろう。
夏なんだから大丈夫だと思わないわけではないけど、そんな事を言った途端に隆久は俺の部屋に乗り込んで来るのは目に見えていた。
「ちょっと待ってて」
クローゼットの中を開ける。一人で使う分には丁度いいくらいのクローゼットには部屋着のシャツと滅多に着ない外着のハイネックやパーカーの服が数着が並んでいて、適当に黒のシャツを手に取って着替える。その間ずっと隆久の視線を強く感じたのは気のせいじゃなく文字通り見張られているのだろう。
「はい着替えたよ」
両手を挙げて見せようと振り返れば、いつの間にか部屋を乗り越えた隆久が立っていた。薄暗い部屋で雨を背に佇む姿は精悍な容姿を一層鋭く見せる。
「すぐに帰る。少しだけ抱きしめさせてくれ」
俺の返事も聞かずに距離を縮める隆久を両腕を広げて迎える。身長差のある隆久に抱きしめられるとシャツ越しにも伝わる厚い胸板の感触と、フレッシュな香りに心が安らぐのを感じる。さっきとは違う意味で心地の良い眠気を感じた。
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