第一章

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「父さんが下でご飯作って待っててくれてるから少しだけね」  口ではそう言いながらも、眠気でぼんやりとした声になってしまった。気を抜けばこのまま眠ってしまう。  うとうと船を漕いでいたら追い打ちを掛けるように頭を撫でられる。優しい感触に益々瞼が重くなる。 「お前、わかっててやってるだろ……」  不満気に声を低めるつもりがただくぐもった声になってしまう。隆久が笑うのが分かった。  このまま眠ってしまいたい。欲を言えばそう思わないでもなかったが、下で待っていてくれている父さんの事を思い出して、隆久の胸を押す。すると隆久は俺の気持ちを汲み取って離れてくれた。    「ありがと。もう大丈夫だから」  隆久はただ俺の言葉に頷いてくれる。本当に、俺には勿体ないくらいよく出来た幼馴染だ。 「隆久も一緒に晩御飯食べていくよな? おじさんもおばさんも仕事で帰って来ないだろ?」  すると迷う素振りを見せる隆久に、その理由にすぐ察しがついて俺は「大丈夫だよ」と言う。そんな俺の言葉を裏付けるように、タイミング良く階下から父さんの声が響いた。 『隆久君の分もご飯用意したから、二人で降りてきなさい』  俺に何かある時は隆久が必ず俺の傍にいてくれるのは両親も知っている為、そういう時は事前に知らせていなくても隆久の分もご飯を用意してくれるのだ。真面目な隆久は長い付き合いだというのに知らせていなかったからと気を引かすのだが。  俺は隆久に笑って手を引っ張る。一緒に下へ降りてリビングへ入った。丁度エプロンを脱いでいた父さんが隆久を「いらっしゃい」と穏やかに迎える。隆久は律義に頭を下げる。 「お邪魔してます。いつも俺の分も用意してくれてありがとうございます」 「隆久君は家族同然じゃないか。さあ二人とも席について食事にしよう。母さんはまだ眠っているから先に私たちで食べよう」  向かい側に父さん、隣に隆久という各自定位置に座り、三人でいただきますと声を揃えて食事を始める。チラリと隣に視線をやれば大皿を埋め尽くすんじゃないかってぐらい大きなハンバーグがあった。言うまでもなく隆久専用だ。食堂での隆久の食事を思い出すが、隆久は問題なく平らげてしまうのを知っている。  父さんも隆久も食事中に話す人間ではない為、テレビも点いていないリビングは静かで全員が黙々と食事を平らげていく。 「明日は祝日で学校は休みだったよな? 二人とも何処かに遊びに行ったらどうだ? 母さんには俺から話しておくから」  思わずハンバーグを食べやすいサイズに切ろうとした箸が止まる。  父さんの気遣いだとは理解していたが、無理だと瞬時に思った。あんなに取り乱していた母さんが俺が外出した事を知ればまた狂乱するだろう。父さんもそれがわからない筈がない。    
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