第一章

13/24
前へ
/73ページ
次へ
 食後の洗い物までしてくれようとした父さんから半ば強引に後片付けを引き受け、全てを終えて洗った手をキッチンのタオルで拭った時だ。 「責任は全て俺がとる。だから、お前は何も気に病むな」 「明日は楽しむよ。隆久こそ何も気にしなくていいよ。せっかく父さんが気遣ってくれたんだからさ」  明日の事を考えると不安で気は重たいが、二人の気遣いを無下にはしたくない。食器を洗いながらずっと迷いながらも考え出した結論は、明日は出かけるが隆久を悩ませない程度に早めに切り上げて家に帰る事。  隆久は眉を寄せ、難しい顔をしていた。明日の事で責任感の強い真面目な幼馴染は深く考えてくれている。 「ほら、そんな顔をするなよ。眉間に皺が寄って怖い顔してんぞ」  人差し指で隆久の眉間をぐりぐりとしてやる。逆に眉間の皺が深くなったような気がしたが、間を空けて隆久から「わかった」と短い返事が返ってきた。  身に着けていたエプロンを脱いで冷蔵庫の側面のマグネットフックに掛ける。 「それより、風呂に入ってきたら? 父さんもさっき上がったみたいだし、俺はお前の後でもいいからさ」  まだオメガである事が発覚する前は二人で入ったりしていたが、発覚してからは母さんが難色を示したのもあり別れて入るようになった。それ以前に、隆久がいつからか俺と入る時に躊躇いを見せていたから、母さんの事がなくても一緒に入らなくなったかもしれないが。  隆久は動かない。物言いたげに俺を見つめている。首を傾げて促すが、胸の内を俺に話すつもりはないのだろう。やがて頷いて、先に着替えを取りに行ってくるとリビングを出て行った。  一人になり、洗濯は入浴が終わってからしようと決めてやる事がない為、テレビ前にあるソファへと移動して座る。テーブルクロスの上にリモコンを見つけるが、どうしても点ける気にはなれなくてゴロリと横になった。  
/73ページ

最初のコメントを投稿しよう!

338人が本棚に入れています
本棚に追加