第一章

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 「俺はいつまでオメガなんだろうね」  思わず零れた言葉に自嘲が続く。そんなの、誰にも聞かなくても死ぬまで俺はオメガだ。せめてベータであれば、今の状況は一転して良くなっただろう。  眠たくなっていく意識の中、そっと手を伸ばして服の中に指を入れて首輪へと触れる。硬い金属の感触に眠気が酷くなっていく。いっその事誰かにこの首を差し出してしまえばいいのではないだろうかと自棄な考えすら頭を(もた)げる。答えは決まってノーだ。父さんや母さん、隆久が悲しむ。隆久に限っては俺を許さないだろう。  自殺したオメガはどうだったのだろう。オメガである事を受け入れていたのだろうか。迎えた結末を想定していたのだろうか。それとも必死に生きて抗って、それでも踏み躙られてしまったのだろうか。  スマホに速報で流れてきたオメガの高校生自殺という文字以外は噂話で聞いた程度しか知らなかった。同じ高校である事は知っているが、名前は知らない。  ガチャリと音がしてリビングの扉が開く音に眠気を押し殺して体を起こす。振り返ると、着替えを片手に持った隆久に「おかえり」と声を掛ける。 「明日は少し早いが九時から出かけないか?」 「別にいいよ」  低血圧で朝に弱いが、普段から隆久が起こしてくれるため心配はしていない。明日の事は、帰宅の時間以外は全て隆久が望むようにするつもりだ。 「もう出かける場所は決めてんの?」 「ああ。明日は全て俺に任せてくれればいい」  隆久の事だ。俺の事を気遣って口には出さないだろうが、普段から俺を連れて行こうと思っている場所は決めていたりするのだろう。滅多にないが、隆久と出かける時はいつも隆久が全て決めてくれる。  隆久は俺の元へ来て、大きな掌で俺の頭を撫でてくれる。宥めるような感触に、不安で揺れる心を見透かされた心地に零しそうになった苦い気持ちは胸に留めた。
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