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手を置いて見下ろした欄干の先には、連日続く雨で水位が上がって汚く濁った底の見えない荒れた大きな川がある。
外は大雨で、カッパ越しに雨の衝撃が伝わってくる。カッパはぐっしょりで、こんな状態を心配性の母さんに見つかれば泣かれてしまう。それでなくても、元々体が弱く風邪も引いてしまって部屋で休んでる母さんに気づかれないようにひっそりと抜け出して来てるんだ。発覚した途端に警察沙汰になるのは容易に想像できた。
だけど別に、そんな危険を抱えて家を抜け出した理由は大それたものではなかった。ただ単純に、帰宅路の大きな橋の川が連日の雨でどれだけ凄い事になっているのか興味があった。心配してくれる親に対して親不孝だとはわかっているけど、それでも母さんの監視の目が緩み、雨が続いている今の機会でしか確認する事はできない。
小学校に通うのでさえ、送り迎えは両親どちらかが運転する車で移動している為、他人より機会が少ない俺には今日しかないのだ。
「落ちたら死ぬのかな」
よくテレビでは子供が川で溺れたという事件のニュースを聞いたりする事はある。大人でもあると聞いた。
自殺願望? っていうのかな。そういうものがあるわけじゃないんだけど、じっと深い川を見つめていたら思わず口にしてた。
「死ぬぞ。だから絶対に試したりなんてするなよ。おばさんやおじさんが悲しむぞ」
呟いた瞬間に横から飛んできた言葉に目を丸くして振り返る。そこには黒い大人用の傘を差した幼馴染で親友の玉澤隆久がいた。
普段からあんまり表情が変わらなくて、大人びた整った顔立ちのせいか誤解されてばかりだけど、面倒見が良くて優しいいい奴だ。
太い眉を寄せて俺を睨んで怖い顔をしてて、俺は一瞬きょとりとするけど、すぐに隆久の様子の理由に思い当って笑う。
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