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「馬鹿だな隆久。俺が飛び込むわけないじゃん。溺死って死に方が一番苦しくてむごいらしいよ。俺嫌だよ、そんなの」
やっぱり一番贅沢な死に方は眠るように死ぬってやつだと思う。首吊りは死ぬまでが苦しそうだし、飛び降り自殺はなあ。やっぱ怖いかも。
テレビやネットで知った情報を思い出しながら頭を悩ませてたら、隆久みたいに眉が寄る。
すると、俺の考えている事が分かったのかもしれない。呆れたみたいに隆久はため息を吐いて、カッパを着ている俺と違って傘一つなのに俺も傘に入れてくれる。
大人用の傘一つに子供二人だから狭いわけじゃないけど、どうしても距離は近いから僅かに触れただけでも隆久の肩を一瞬で濡らす。思わず声を上げて慌てて離れようとしたのに、隆久は俺の手を掴んでまた睨んできた。ほんと、隆久って面倒見が良くていい奴だよな。
「死にたいなら俺が殺してやるから」
俺と同じ十三歳なのに、大人びた口調で物騒な事を言った隆久の視線は俺じゃなくて、少し前の俺と同じように欄干の先にある。無言で見下ろす隆久の横顔には何も浮かんではいなかったが、それでも真剣にも思える瞳で濁った色を見つめている。
どうやら本気で俺に自殺願望があると思っているらしい。
「俺死にたいわけじゃないけど」
「そうか」
納得してくれたというよりも、流されたような気がしてなんだかすっきりしない。だけど、清久が真剣な顔をしてたからそれ以上否定するのは止めた。
だけど、本当に死にたいと思ったわけじゃない。それ以前に、俺は生きていなければいけない義務があったから。
おばさんが心配するぞとタイミングを計ったように言った清久の言葉で帰宅することになり、助かった事に母さんにはバレないで済んでその日は平穏に過ごした。
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