第一章

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 最初に聞いた時に答えたカツカレーとコロッケうどん。それに加えて麻婆豆腐に四切れの卵焼きとツナサラダまで追加されていた。サラダが申し訳程度にあるのは、隆久の母さんが野菜も食えと口うるさく言っているせいだ。  隆久の母さんは元気で良い人でバリバリのキャリアウーマンだ。多忙な人だが教育熱心で隆久の教育に手を抜いた事はなく、厳しく育てられた隆久は隆久の母さんに逆らえない。俺には会う度にお菓子をくれたりととても優しいのだが、隆久にはとにかく厳しい。  今目の前にある食べ物が全て隆久の筋肉になるのだから羨ましい。体を取り換えてほしいくらいだ。 神様って奴はなんて不公平な野郎なんだと諦めの境地で思いながら、大盛にしてもらった肉うどんの麺をすする。すごく美味しい。 「お! 隆久と光矢じゃん~!」 「隆久相変わらず量多いよな。運動部にも入らずこんなに良い体しやがってもっとダルダルに太りやがれよ」  同じく学食を食べに来た友達の四津と倉木が俺たちを見つけて寄って来た。手には隆久と同じくらい大量の学食が抱えられていて、席を探している途中なのだろう。ぶーぶーと唇を尖らせる倉木の言葉には同意だ。 「席見つかりそうか?」  周囲に空いた席は見えず聞くと、四津は肩を竦める。だが食堂は席が空いていない事の方が多い為、倉木も「ま、仕方がねえよな」と軽く呟いている。 「諦めて今日は他で食べる事にするよ。なあそれよりもさ、今日二人とも放課後時間ねえか? 病気で休んでるやつが何人かいてバスケ部の人数が足りなくてさ、先輩に誰か探して来いって言われてんだ。助けてほしいんだけど」 「なんならそのまま入部してくれていいんだぜ。そもそも運動神経抜群で俺等と同じくらいバスケが上手い隆久がバスケ部に入ってない事がおかしいんだよ。光矢もそう思うだろ?」  四津と倉木はバスケ部で、一年生ながらレギュラーに抜擢されている。そんな二人は実力がありながらも帰宅部の隆久を熱心に部活に誘っているが振られ続けている。原因は俺だが。  だから四津があえて運転音痴で通ってる俺も誘ったのは俺がいないと俺と一緒に帰る隆久をバスケの助っ人に呼ぶ為だ。  俺を味方につけようと同意を求めてくる倉木に「そうだねえ~」と軽く返事をすれば、縋るように見つめられる。無視してうどんを啜ると「光矢~っ」とお追い縋られたが。    仕方がないな。 「行って来たら? どうせ今日俺真っすぐに家に帰らないと行けないし」  正確に言うと今日だけでなく毎日だが。遅く帰れば母さんが心配して大変な事になる。だが今日は特にーー早く帰らなければいけなかった。 「行かない。すまない」  最初の言葉だけ俺を見て、四津と倉木の方を振り返る。倉木は諦めきれないような顔をしていたが、最初から期待はしていなかったのか四津は「残念だよ」とあっさりと引き下がる。
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