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「ほんとお前達って仲良いよな。隆久は光矢大好きで、何処に行くにしても一緒だし」
「幼馴染だしね」
「お前たちは幼馴染以上だって。ほんと仲良いよな」
倉木が言うように、普通の幼馴染よりも仲が良いという自覚はある。昔から俺と隆久の仲は実の兄弟以上だとも言われ続けてきた。
「そろそろ行くわ。そんじゃな」
去って行く二人に軽く手を振って見送る。二人が人混みに消えたのを見て、視線を隆久へと移した。すると、あんなに大量にあった食事は半分以上が消えていた。
俺に合わせる必要なんてないんだぞ。普通ならそう言うのかもしれない。だが俺達には軽い言葉過ぎて、そもそも頑固な隆久が俺の言葉に頷かないのも知っていた。今までも俺たちの関係はこうだったのもある。
それに、隆久は今日が俺にとってどんな日か知っている。だから隆久が何処にも行かないのも知っていた。
と、隆久が視線を上げる気配に気づいてそっと視線を落とした。ズルズルと麺を啜るうどんは絶妙な出汁が本当に美味しくて、腹が満たされた。
ホームルームになり、帰り道には気をつけるようにという担任の忠告が終わって揃って帰宅部の俺たちは学校を出た。傘越しに覗く空は、いつもは夕方でも昼のように明るいというのに暗く濁っていて雨は変わらず降り続けていた。だが雨のおかげか空気は湿っているが涼しい。
「梅雨みたいに降ってるよな」
「ああ」
「これ止んだ後はすげえ暑いんだろうな。俺暑いの苦手だからやだねえ」
寒いのも苦手だから冬も好きというわけではないが、特に夏は苦手だ。暑いし、蝉の声を聞くだけでも汗が出てくる。
「そういえばおばさん元気にしてる?」
「してる。お前に会いたいが仕事が忙しいと愚痴っていた」
という事は当分は会えそうにないなと思う。隆久の母さんは仕事で留守にする事も珍しくないから、家にもあまり帰ってきていないだろう事は察しがついた。
俺達の家は学校から電車を二本乗り継いで徒歩で十五分くらい歩いた住宅街にある。親が友人同士の上に家も隣だから帰る道も一緒だ。とはいっても、俺は事情があって隆久と一緒に帰る事になったのは高校から少し経ってからなんんだが。
と、ズボンのポケットに突っ込んでいたスマホの振動に足を止めれば、隆久も足を止めて振り返る。
スマホを取り出して確認すると、父さんからメッセージが届いていた。アプリを開くと、出来る限り早く帰ると短い言葉がある。分かったと返信をしてまたスマホをポケットに捻じ込んだ。
「おじさん今日は早く帰れるのか?」
「んー、すごい努力はしてくれるだろうけど部長って立場もあるから分からない」
父さんは家族を大事にしてくれる人だから本当に努力はしてくれるだろう。滅多に寄り道もしない。
すると、じっと物言いたげに俺を見つめてくる隆久に、言いたい事は聞かなくても分かっていたから安心させる為に笑う。
「大丈夫だよ」
いつもの事だから。続く言葉は声にしなくても隆久には伝わる。眉を寄せる隆久の心境が手に取るように分かるが、こればかりは俺にはどうしようもないのだ。全ては俺がオメガのせいだから。
歩きを再開すれば、隆久は何も言わず続く。やがて家の前に到着し、隆久の方を振り返った時だ。同時に隆久に抱きしめられた。
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