悪魔の花嫁2

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悪魔の花嫁2

悪魔の花嫁2 私がパン屋から、今日の施しを受け取って帰ってくると、何故だか家中水びたしになっていた。そして奥の風呂場の方から、 「あー」 とか、 「ぎゃー」 とか、間抜けな声がしていた。 先日、私は体のいい召使を所望して、小さく従順な(というかびしばしこき使えそうな)悪魔を召喚したはずだった。しかしどこをどうしくじったのか、出てきたものは。 「てんめーーーなんでこんなボロっちいとこに住んでんだよ!!シャワーくらいつけときやがれ!!!」 タオル一枚で怒り狂っている、この悪魔が何をしようとしていたのかは想像がつく。 こいつは、悪魔のくせに、水浴びをしようとして、その蛇口がシャワーのように首が伸びるのが、まるで当たり前であるかのように手前に思いっきり引っ張ったのであろう。 しかし、我が家の蛇口は、その貧相な外観にふさわしく、首が伸びるなどという高級仕様ではなかったのだ。 「お前、魔法とかないのか?水を止めるとかできないのか?」 「お前がオレの爪と尻尾をちょん切ってくれたおかげでな!」 悪魔は私を睨んで、今にも飛び掛ってきそうだったので、私はうんざりして庭に元栓を締めに行った。 別に、魔力が使えなかろうと、かいがいしく勤めてくれるなら、契約した甲斐があったというものだが、こいつは毎日何かしら問題事を起こし、汚かった教会を更に汚くする事に努めてくれた。 私は何故か奴との格闘のために、生傷が絶えなくなった。 「ったくよー、力があればなーこんなのすぐ直せるのによー」 悪魔が蛇口を放り投げるのを眺めながら、私は密かにこいつをどっかの大富豪にでも売り飛ばしてしまおうと考え始めていた。それにしても私はどうしてこんな奴とあんな契約をしてしまったのだろう……。 私が生きている限り、ずっと側にいろ、なんて契約。 ++++++++++ 一晩中、床を拭きつづけて、ふと外を見ると、もう明るみが射し始めていた。優しいパン屋がくれたパンは、悪魔が勝手に二人分食べてしまい、そのまま奴は寝入ってしまった。 悪魔だから、悪辣なのは当然だが、その寝顔が美しいだけ、私は怒りが沸いた。 疲れている上に、腹が減ってどうしようもなかったが、とりあえず全てを眠ってごまかす事にした。何とかベッドまで辿り着き、悪魔の隣に倒れこんだ。 眠って起きたら全てが夢だったらいいのに。ただ飯食らいの悪魔も、やっかいな契約も全部なくなってしまえばいい。 軋む体を動かして、脇を見ると悪魔がじっ、と私を見ていた。思っていたより顔が近くにあり、私は居心地が悪くなった。悪魔は別にきまずい風もなく、私を見つめ続け、ニヤリと口の端をあげて笑って見せた。 とたんに私は嫌な予感がした。 「ご苦労さま」 悪魔は捨てたはずの蛇口を抱いて寝ていた。 「お前、おかしいと思わなかったの??……下級悪魔が水浴びなんかできると思うのかよ?下級悪魔が尻尾切られて、ヒトガタでいられるとでも思ってたの??バッカだねー」 私は、何を言われたのか判らず、少し首を傾げて見せた。悪魔はそんな私をみて、またににーーっ、と笑った。 「昼になったら、直してやるよ。蛇口」 ……私は何か最悪な言葉を聞いたような気がするが、改めて考えたくなかった。 私が召喚したものは何なのだろう??だんだん目の前が暗くなっていったが、それが血の気が引いていったからなのか、眠気からだったのか、私には判別がつかなかった。 おぼろげに判ったのは、側に居る悪魔が、しばらくくすくす笑った後、私の髪を優しく撫でていてくれた事。
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