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悪魔の花嫁1
悪魔の花嫁1
私は大きな街のはずれにあるボロ教会の神父だ。
日がな一日、訪れる暇人どものくだらない悩みや、懺悔を黙って聞き、適当な所で相槌をうち、一番欲しそうな答えを教えてやり、納得して帰ってもらうことを生業としている。
昨日は街で有名な歌姫が、なんと私の教会の三軒向こうの、小さなパン屋の青年に恋をしているのだ、と打ち明けにやって来た。いったい、どこで出会ったのだ、と言う方が気になったが、その高慢ちきな雰囲気に似合わず、決意は本気に見えたので、一緒になりたいなら押しかけていけば?と言ってやった。
きっと近いうちに歌姫は引退し、いつのまにか私の隣組の一員になっているかもしれない。
まあ、パン屋が元歌姫を無事にパン屋の妻に育て上げることができなければ彼の人生は相当辛いが、私の知った所ではない。
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私は先日、教会を掃除したり、洗濯をしてくれるような人手が欲しかったので、隣に住む不思議な占い師の元を訪ねた。
彼はちっとも占い師として働いている風は見えないのに、何故か金に困っているようではなかった。いつも小綺麗にして年配の学者と通りを歩いていたり、かと思うと私に新しい本を寄付してくれたりした。
きっと占い師とは名ばかりで、彼はどこか大きな財閥の若主人なのだ。そうでなければ、なぜ、こんなにも働いていないのに呑気でいられるのか判らない。いや、周りから見れば私もそう見えるのだろうが。
そんな彼に手助けを求めた所、
「だったら、悪魔を召喚して契約なさい」
と言って切り返された。
そこで私は小型の、飴玉でつれそうな低級低脳悪魔を召喚することにした。私は貧乏神父であるが、一応魔方陣の書き方くらいは知っていた。
生贄にできそうな食べ物は、私の今夜の夕食になる予定のラム肉しかない……それはあんまりにもったいなかったので、近所をうろうろしていた犬をひっぱりこんで祭壇に無理に登らせた。
…… そうそう言っておくが私は肉も平気で食べる。パンのみで生きていきたくはない。
犬が悪かったのか、魔方陣からもくもくと赤黒い煙が上がって、室内がまったく見えなくなってしまった。バチバチと火花が散って、地響きが起こった時、私はこのボロ教会が崩れてしまったら誰が手伝いにきてくれるだろう、と考えた。
やがて、煙が薄れていくと魔方陣の中央に何かが座っている。思っていたより大きい。
もしかして、ヒト型の高等悪魔?
「ったくよー!!こんなん食えるかっつの!!!」
……しかもヒトの言葉を話すらしい。これは危険だ。
私は燭台を手に取り羽のついた背後に回りこんだ。悪魔もまた、周りを窺っているようだったが、私は容赦なくその後頭部に燭台を振り落とした。
一発でヒットしてよかった。用意しておいた契約書に、目を回している悪魔の拇印を押させて一件落着。これで万事解決だ。隅の方で怯えている犬を蹴り出してから、私はやっと悪魔の姿をじっと見た。
まだ若い少年のように見えたが、間違いなく角も羽も尻尾もあった。
しかし見れない顔ではない……
とりあえず、そんな暇があるうちに私は悪魔の爪と尻尾を切り落として、高等魔力を使えなくし、勝手に逃げ出すことがないようにしてやった。
本当の悪魔は私か?さてさて……
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