虚ろなリアル

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 その開いたドアから、眼鏡を掛けた中年の主任風の男が入って来た。  着ている服はやはり真っ白で、工場か何処かの作業着のようだ。  男は、手元の帳簿を見ながら、 「カワムラユウタさんどうぞ」と言った。  カワムラユウタ、僕の名前だ。  訳が分からなかったが、促されるまま立ち上がり、真っ白な部屋を後にした。  部屋を出ると、そこは長い通路になっていた。  部屋と変わらず通路も白かった。  そして蛍光灯は青みがかって見えた。  男は歩きながら、カルテのような物を見つつ話しかけてきた。 「ここに来た動機は何ですか?」 「いや、それは……」  気付いたらここにいたのだから、動機などあるわけがない。  そもそも動機があってここに来たというなら、こっちが教えてもらいたい。 「いやいや、いいんですよ動機なんて。変な理想とか哲学なら無いほうが良いですし。お金が欲しいなら、ただお金が欲しいというだけで結構」 「金ですか?」 「ええ」 「金が貰えるんですか?」 「何をとぼけているんです? お金が欲しくてここで働こうと思ったのでしょう。採用されるかはまだ分からんですが」  なるほど、ここは何かの仕事をする所で働けば金が貰えるのか。  でも、僕はここで働きたいと思ってないし、第一何をするのか分からない。  もうすぐ大学四年になるから就職先は探しているが、こんな異様なところは願い下げだ。
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