虚ろなリアル

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「どういうことなんです?」  思わず僕は尋ねた。 「どういうって、組み立てと解体の作業ですよ。組み立て役と解体役は日によって変えることが出来ます」  主任風の男は、驚いたような表情をして答えた。 「これが仕事なんですか?」 「もちろんです。作業時間の八時間サボタージュせずに働けば給料を払います。社員なら月四十万程ですかね。ここは試用期間の者を除いては、全員正社員です。他の作業にも言えますが、福利厚生もちゃんとしていますし、良い職場だと思いますよ」 「はあ……」  こんな意味の無い作業に、どうしてそんな金を払えるのか全く分からなかった。  でも、そういった事を完全に無視すれば、四十万という金額は魅力的だと思った。 「その顔だとあまりお気に召さなかったようですね。次に行きましょう」  そう言われ、一つ上の階に行くことになった。  その階を示すエレベーターのボタンは◎だった。  エレベーターを降りると、そこはどこかの一流企業のオフィスのようになっている。  ただ、何もかもが相変わらず白く、蛍光灯も相変わらず青白い。  ここでの作業も奇妙なものだった。  部屋には大勢いたが、二人一組で作業をしているらしいことは分かった。  背中合わせに席に着いた二人が、一冊のノートに何かを書いては、後ろ手で相手に渡し合って、何かのやりとりをしているからだ。  互いに振り向くことも話すことも無く、ノートの交換を続けている。 「この作業は何です?」 「これは詳細化と簡略化の作業です」と主任風の男は答えた。 「詳細化役と簡略化役の二人ペアで、どちらからでもいいのですが、最初にノートに書いてある言葉を、詳細化なり簡略化して相手に渡します。後は時間まで詳細化と簡略化を繰り返します。交換した回数で給料が上下するので、先程の作業より稼ぐことも出来ますよ」  作業の意味も分からなかったが、それ以上にどうしてこれで金を貰えるのか分からなかった。  詳細化と簡略化の先に、何か展望があるなら分からなくもないが、彼らはノートを書き終わると、監督役に交換回数だけを数えてもらいノートを捨てていた。
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