虚ろなリアル

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 その後もいくつか作業を案内された。  二人が互いの足元にある水槽に入った水をバケツで移し合う作業。  五人一組のグループに何かの選択肢が出され、全員が一致したら金がもらえる作業。  他にも色々あったが、変わったものを見すぎて疲れたのか、記憶に残らなかった。  一通り見終えると、主任風の男は、 「後日でも良いので、気に入ったのがあったら来て下さい」と言いい、エレベーターの*のボタンを押した。  *のボタンは、一つだけ離れていて、一番上にちょこんとあった。  ドアが開くと、相変わらず目の前は白かったが、通路の先は外に通じていた。  僕がエレベーターを降りると、 「それでは機会があったらまた後日」と男はエレベーターの中から言い、手を振った後ドアを閉じた。  通路を進むと、その先には、大学の通学で通る駅前商店街が、いつもと変わらず広がっていた。  通りに出て後ろを振り返ると、そこはボロボロの小さな雑居ビルだった。  そして僕が出てきたはずの通路は、くたびれた灰色のコンクリート壁に変わっていた。  その壁の横には、所々錆びた郵便受けが備え付けられている。  建物の中での出来事といい、今の出来事といい、全く理解が出来ない。  しばらく辺りを伺っていたが、とりあえず目の前に広がる商店街だけは理解出来たので、駅まで歩き、電車に乗って家に帰ることにした。
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