虚ろなリアル

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 家に着くまで、いや、家に着いてからも建物の中での出来事について考えた。  何故、僕はいきなりあそこにいたのだろうか。  何故、あんなわけの分からない作業を、あそこの人達は平気で続けていたのだろうか。  何故、あんな作業で結構良い給料が貰えるのだろうか。色々考えた。  あれは何かの実験場で、裏では彼らの作業を元に、何か研究を行なっているのではないか、とか。  あるいは、僕が作業の意味を理解できなかっただけで、あの作業にはちゃんとした意味があるのではないか、とか。  でも結局、自分があそこにいた理由から何から全く分からなかった。  一週間くらいの間、ベッドに入る度、建物でのことを思い出したし、夢にも出た。  でも、一ヶ月もすると、あの建物での出来事自体が夢であったように感じるようになり、大学四年の中頃には、めったに思い出すこともなくなった。  友人も含めて、周りの同級生の多くは就職が決まり、大学最後の年を悠々と過ごしている。  こういう言い方をしている限り、僕はまだ就職先が決まっていないということになる。  ゼミの友人の一人は、このまま大学院に進むらしい。  さぼりの常習犯だった友人も、何かを見つけたらしく、卒業後はブラジルに行くらしい。  そもそも、僕は何かをしたくて大学に入った訳ではなかった。  大学にしても学部にしても、僕が受かりそうなところを受けたに過ぎなかった。  周りに促されるまま大学に入ったのだ。
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