虚ろなリアル

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 就職先が決まらないまま、夏が過ぎた。  僕は、大学に入った時から中高生向けの個人指導の学習塾でアルバイトをしている。  そこの室長が、新しい教室を開校するので、そこで室長として働かないかと誘ってきた。  やり慣れた仕事なのでそれも良いかなと思った。  でも、返事は保留した。  別に稼ぎが悪いからという訳じゃない。  教室に通う生徒の人数で基本給が増えるので、七十人も通ってもらえば、十分生活することは出来る。  その話の一週間後あたりに、高校からの友人が、会社を立ち上げたので一緒にやらないかと誘ってきた。  僕は、とりあえず話だけでも聞いてみようと、後日会う約束をした。  友人とは二日後、地元の喫茶店で会った。  彼の話によると、現状は中古パソコンの販売が中心だが、イベント関連事業を現在育てているらしい。  他にもいくつか計画を打ち明けられた。  僕は話を聞きながら、楽しそうだが将来どうなるか分からないその会社と、面白みに欠けるが給料の安定した塾の室長とを心の中で天秤にかけた。  そして僕は友人の勧誘を断った。  それでも友人の熱心な勧誘は続いた。  それを聞いているうちに、成功するにせよ、失敗するにせよ、何かに挑戦してみようという気に、僕は段々なっていった。  結局、その場では答えを保留したが、その夜家で一人考えているうちに、やっぱりやってみようという気になり、友人に電話して会社で働くことになった。  電話をしてから三日後に試しに働き始めたが、週に二度大学に行かねばならなかったので、大学の日は夕方だけ顔を出した。  そのように過ごしながら、時々大学をさぼりはしたが卒業した。
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