虚ろなリアル

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 会社に入った最初の一年は辛かった。  自転車操業状態で、狭いオフィスに何日も泊まり込みで働くこともあった。  それに聞いていた内容とは違う仕事も多く、危ない橋を渡っているんじゃないかと思うこともあった。  それでも、二年目には事業が軌道に乗り始め、そこそこの収益を上げるようになった。  三年目になると、従業員も増え、勤務時間にも少し余裕を持てるようになった。  僕は取締役になり、部下を働かせ、空いた時間を利用してもっと収益を上げる方法を考えた。  そして、夜には酒を飲み、女の子とも人並みに遊んだ。  全てとは言わないが、会社も生活も上手くいっていたと思う。  でも、それからの事はあまり覚えていない。  会社の規模もそこそこのものになったので、上場しようとしたような気がする。  新しいことを始めようと、どこかから融資を受けたような気もする。  今の自分には正確には分からない。  多分、上を見すぎていたので、目の前の落とし穴に気づかなかったのかもしれない。  もしくは、足元に注意し過ぎていたので、頭をしこたまぶつけたのかもしれない。  あまりに多くの事が起きて、あまりに多くのものを失ったのは、ナイフが心臓に突き刺さるような現実として感じ取れた。
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