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仕事を終えて帰宅した。
帰り際、2歳年下の同じ会社の後輩OLに、新しく出来たバーに飲みに誘われたが、やんわり断って、会社からそのまま真っ直ぐ直帰した。
その後輩OLは、かなり可愛らしく、はっきり言って僕のタイプだったけど、やはり思わせぶりな態度は避けたかった。
今後は冷たく接してくるかもしれないから、それを思うと、タイプなだけに少々辛いが、それはまあ仕方がないことだ。
変に気のある素振りをするよりはマシだ。
キッチンへ行き、オムライスを作って一人で食べた。
残業規制があるので最近は帰りが早い。
前は終電近くまで残業し、家に着いたら0時を回っていたこともたまにあったくらいだったので、まさに雲泥の差だ。
オムライスを一人で食べた後、棚の上に飾ってある記念写真を見た。
浜辺で彼女と一緒に撮った写真。
少し日焼けした彼女は優しい笑顔でこちらに笑いかけている。
長い髪が風に揺られて、少し乱れているのが美しい。
あの日の、記念写真。
とても楽しかった。
幸せすぎた午後の時間。
彼女の隣で、へんな半笑い顔で写っている僕。
自分でも笑ってしまう。
彼女も初めて写真を見た時、僕の顔を見て吹き出していた。
あの時は、そんなに可笑しい?と思ったけど、今見ると、彼女が吹き出したのもよくわかる。
実にへんな半笑い顔。
でもこれが、
僕が最も幸せを感じている時の顔なんだ。
それは間違いない。
「なんかでも、ちょっと安心した」
「何?」
「だって、ここんとこ、いつも疲れた顔してたから。こんな間抜け顔見てすごく安心した」
「間抜け顔って何だよ」
「だって…フフフ…でも本当に楽しそうな顔してるんだもん」
「本当に楽しいもん」
「そう。よかった」
「ねえ、ワインとかよくわかんないけどさ、この間シャンベルタンってワイン貰っちゃってさ」
「ふーん、誰から?」
「ホテルからだって。なんか美味しいらしいから一緒に飲まない?」
「いいけど。ワインで乾杯なんてちょっとお洒落ね。お子ちゃまな私たちに似合うかな」
「いいじゃん。美味しければ、そんなの」
「まあそうね。あ、こんなお洒落なワイングラスも持ってるのね。ワインの色が綺麗ね」
「そうだね、それじゃあ、乾杯」
「乾杯!」
ワインを飲むうちに、彼女はポッと頬を赤く染めていく。
「美味しいね」
そう囁く彼女の至福の微笑みに、僕は酔っ払いそうになった。
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