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彼女は天空高く舞い上がり続けた。
そして、いつの間にか、空の彼方に、彼女は完全に消えてしまった。
ただ見上げていた視界には、空の青が、ひどく虚しく見えるだけだった…
その時、急に目が覚めた。
まだ真夜中だった。
いつの間にか、ワインに酔っ払って眠ってしまっていたみたいだ。
目の前のテーブルには飲みかけのワインが入ったグラスと、残り半分くらいになったシャンベルタンの瓶があった。
ふと棚の上にある記念写真を見た。
彼女が、そこに、変わらず写っていた。
いつもと変わらず。
この記念写真の中に。
僕の隣で、ちょっと日焼けした笑顔の彼女が。
楽しかった思い出。
彼女と一緒に写真を撮ったのは、これ一回きりだ。
本当は、彼女とは、まともに話をしたことすらもない…。
前にたった一度だけ、夏に海に行った。
その時、浜辺で、少しだけ話をした女性がいた。
別に大した話はしていない。
まともに話をしたとも言えないレベルだ。
でも僕にはそれが、何にも代え難い、素晴らしき至福の時間だった。
その時、たったの一回、流れで一緒に写真を撮っただけだが…。
もう一度、逢いたかった…。
この写真を撮った半年後、
彼女は死んでしまった。
事故だったと、人から聞いた。
もうこの世に、彼女はいない。
彼女が死んでしまったのを聞いた時は、
さすがに、悲しかった。
いや、
本当に、ひどく悲しかった。
人生に何も無い僕から、さらに全ての、何もかもが消え去ってしまったようで…。
そう思った。
だが、その翌日から、
彼女は、僕の夢の中に現れたのだ。
まるで僕のカノジョみたいになって…。
何故だかはよくわからないけど、眠りにつき、夢の中で、ずっと彼女に会えた。
本当はまともに話したこともない彼女が、何故か僕のカノジョになって…
とても幸せだった。
この夢の中の時間がいつまでも終わらないでいてほしいと、
いつも願い続けてきたのに…
その後、
夢の中に、彼女が現れることは、
もうなかった。
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