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6
それからというもの、彼女とは写真でしか会えなくなった。
もう夢で逢えることはないのか?
眠ってから夢を見ても、もう彼女は一度も現れなかった。
彼女と一緒に撮った写真をスマホで撮影して、いつでも見られるようにした。
もう彼女とは写真でしか逢えない。
会社に行き、仕事をしていても、何をしていても虚しかった。
彼女とはたったの一回しか逢っていないのに…
でもその一回が、僕の全てだった。
日焼けした顔で、優しい笑顔を浮かべる彼女。
毎日夢の中で逢えたのに。
全てを犠牲にしても、彼女にずっと逢っていたかった…。
彼女のいないこの現実に生きていることが、初めて無意味に思えた。
いや、
今まで現実が無意味に思えなかったのは、彼女と夢で逢えていたからだ。
夢で彼女に逢えるという"非現実"を生きていたから"現実"に意味があっただけなのだ。
その非現実が消滅すれば、僕の現実も自動的に消滅したも同然だ…
深夜、会社のビルの屋上に初めて昇った。
こんなにビル街の景観が美しいとは今まで思ったことがなかったが、その美しさも、僕には無意味だった…
靴を脱いで、手摺りに手をかけた。
その時、
不意に遠くの夜空を見た。
何かが遠くの方に浮遊していた。
徐々にこちらに近づいてくる。
それは、何故か、
大量の傘の群れだった。
なんとも夥しい数の傘の群れが、真夜中の夜空に浮遊していたのだ。
やがて傘の大群は、何故か僕に近づいてきた。
何だ?!
訳がわからなかった。
だが、しばらくして傘の大群は、僕を取り巻いた。
そして、いつの間にか、僕の腕や足に絡みつき、がんじがらめに拘束してきたのだ。
何だ、これは?!
僕は抵抗して暴れたが、傘の大群は強力な力で抑え込んできた。
全く訳がわからなかった。
そのうちに傘の大群は、いきなり真っ暗な夜空に飛翔した。
勿論、拘束された僕も一緒に夜空に舞い上がった。
一体、何が起きているのか、まるで訳がわからなかったが、
いつの間にか僕は、
暗黒の夜空を飛んでいた。
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