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傘の大群は都市のビル街の上を飛翔し、その後僕を乗せて、どんどん上昇し、高度を上げていった。 さっきまで見えた都市のイルミネーション煌めく洗練された景観が、もうまるっきり見えなくなるまで、傘の大群は上昇に上昇を重ねていった。 一体、何処に向かっているのかなど、まるっきり見当もつかない。 やがて傘の大群は、黒い雲のような塊に近づいていった。 何だ?あれは? 天空の高き上部に、こんな塊が浮遊しているというのは、まさに神秘としか言いようがなかった。 傘の大群は、その塊の方に向かっていた。 だが、その塊を、傘の大群はすぐにあっさりとすり抜けてしまったのだ。 塊の上には何が…? などと思っている暇すらなく、黒い塊の上はひたすら透明に澄み切った、まるで"無空間"のような神々しい場所だった。 全てが光に包まれていた。 そして、全てが透明に澄み切っていた。 まさに"無空間"としか言いようのない、 何も無き、美しき透明極まる神的な空間だった。 そこに、 この世のものとは思えない、一人の美しき少女が立っていた。 少女は、凄ざまじい程に美しい微笑みを浮かべて、僕を見ていた。 そして、おもむろに、その小さな口を開いた。 「本当は禁止されているんですけど。今回だけは特別です」 美しい少女はいきなりそう言った。 「えっ?」 「前に私は、地上に堕ちてしまったことがあります。その時、ある男性と、そこにいるスカイアンブレラさんに助けられて、ここに無事戻ってこれました。スカイアンブレラさんには、その時の大きな恩義がありますので、今回だけ特別です」 「え?あの…」 訳がわからなかったが、天使のように美しい少女は、すぐに後ろから一人の女性を連れてきた。 彼女だった。 「ああ…!」 「本当は禁止されているのですが、今回だけ特別にお逢いになれます」 そう言ったかと思うと、美しい少女も傘の大群もが、いつの間にか完全にその場から消えていた。 そしてこの神々しい無空間のような場所には、 僕と彼女しかいなかった。 だが…。 彼女と僕は、現実には浜辺で一度だけ逢ったことがあるに過ぎないのだ。 大して話したわけでもない。 果たして彼女は、僕のことなんか覚えているのだろうか? 全く自信がなかった。 夢に出てきた彼女、あれは、ただの僕の無意識の願望の顕れにすぎない…。 本当の彼女ではない…。 「あの…僕のこと、覚えてます?」 「はい」 「ああ、よかった」 「生前、一度しかお逢い出来なかったですけどね」 「はい…」 「あなたのお名前も連絡先もわからなかったし、あなたの方も私の名前も何もご存知ない。だから、もうお逢い出来ないだろうなと思っていました」 「はい、後で知人からあなたが亡くなっていることを知らされたので、僕ももう永久にお逢い出来ないと思っていました。それから僕は…その、あなたの夢ばかり勝手に見ていました…すいません…」 「そうですか」 「でも、ちょっと前から、その夢からもあなたは消えてしまいました…」 「それは私が、この世界に成仏したからでしょうね」 「え?」 「実は私、死んでからずっと夢を見ていました…その、あなたの夢を…」 「ええ?」 「死んでから、現実ではなく、夢の世界でだけ生きていました。あなたと、共に…」 「そ、それじゃあ?」 「ええ、あなたが夢で逢っていたのは、私そのものです。私の夢の中であなたが生きて、あなたの夢の中で私は生きていたのです」 「僕は…あなたが現れる自分の夢と、あなたが見ている夢の両方を見ていたのですね…」 「ええ、私もそうです。あなたと過ごした夢の中での時間は本当に楽しかった。お別れするのが本当に辛かったです。でも…あなたまで死んでしまっては駄目です!」 「は、はい…」 「いつまでも見守っています。あなたのこと…。私が生涯で、たった一人だけ、愛した人だから…」 「…僕もです…」 もう何も、それ以上、話すことはなかった。 そこから彼女は、あの夢の中の彼女のようにまた僕に接してくれ、いつしか二人でふざけ合いながら、スマホでまた記念写真を撮った…。 その後。 ふと、 目を覚ました。 僕は何故か、自宅のベッドの上に寝ていた。 また夢を見たのか? なんだか変てこりんな傘の大群と、超絶的に美しい天使と、そして彼女が出てくる夢…。 だが、スマホのフォトアルバムには、彼女とあの神々しい無空間で撮った写真が残っていた。 そこには僕と、まるでエクトプラズムみたいな光の束が一緒に写っていた。 僕はすぐにプリンターで写真印刷して、棚にある写真立ての中に、そのフォトグラフを入れて飾った。 他人が見れば、それはただ僕が一人で写っているだけのフォトグラフにしか見えないだろう。 でも違う。 僕は一人だけど、一人じゃない…。 いつでも。 どんな時も… フォトグラフは、単に"写真"と翻訳されることも多いが、本当はフォトグラフとは、光のアートのことを言うのだ。 光のアート。 そう、 僕らは死の世界ではない、 光の世界で生きている 二人で… どんな時も…。 あの得体の知れない傘の大群が、その光の世界を知らしめてくれた。 確か、"スカイアンブレラ"と呼んでいた… 都市の高層ビル街の空を飛び交う、空飛ぶ傘=スカイアンブレラ。 そんな都市伝説を、聞いたことがある。 ある時、人は、それを目撃することが出来る…。 目覚まし時計を見た。 7時ちょっと過ぎだった。 ちょうど出勤の時間だ。 僕はスーツにいつものように着替えてから、コーヒーを飲み、すぐに元気よく仕事に向かった。 (終)
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