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時は平安。越後の山寺に2人の稚児がいた。
1人はずば抜けた美貌の持ち主の少年。4歳の頃にすでに16歳の知能と体力を持ち、手のつけられない乱暴者であった為、稚児へ出された。
名は外道丸という。
もう1人は5歳の頃に近くの神社から寺へ預けられた少女。
その子も綺麗な顔をしていたが、体は熊のように大きく気性が荒いことから、両親が将来を案じ稚児へ出した。名は椿。
2人は互いだけを信頼し合い、唯一無二の親友として一緒に成長した。
⌘ ⌘ ⌘
2人が16歳になった冬。その日は和尚様に連れられて久しぶりに村へとおりた。近くまできたところで和尚様が振り返る。
「それでは2人とも、私は少々用事を済ませて来ます。待っていてください。」
和尚様はそう言ってにこりと笑うと、にぎわう村の中心へと消えていった。
「和尚様もなんでいつも俺らのこと無理矢理連れてくんだろーな。どうせ村の外れで待ちぼうけなのによー。」
外道丸は大きな岩に腰を掛け頰肘をついた。
すると彼の倍の大きさはある身体で辺りを見渡した椿が、遠くからこちらに歩いてくる子供達を見つけあからさまに眉根を寄せる。
「和尚様はうちらが他の子供達と交流する機会を作ってんでしょ。」
「はぁ?」
外道丸も椿の視線の先に一瞬目をやると舌打ちをした。
「...チッ。無意味なことを。」
楽しそうにはしゃぎながらやってきた5人組の村の子供達が2人に気付いた。そして馬鹿にしたようにニンマリと不敵な笑みを浮かべる。
「寺の外道丸と椿じゃん。怪物が村に何しに来たんだよ!」
「そうだ!お前たちみたいな呪われた化け物なんか村に来るな!」
次々に悪態をつく子供達を、外道丸は耳に小指をグリグリ入れながら呆れた顔で眺めた。
「お前ら顔合わせれば毎度同じことしか言わねーな。頭悪すぎて呆れ返るぜ。」
「...?!」
子供達はグッと言葉に詰まり睨み付ける。
「くそっ!捨てられ子のくせに...。」
その言葉を聞いた途端、椿の両眉があがり青筋が立った。
「あーあ。地雷踏んだな。」
外道丸は妖しく口の端をあげた。
すると椿が地面から大きな岩をいとも簡単に引っこ抜き、子供達めがけて思い切り振りかざすーー。
「わぁー!!」
「怪物だー!!」
「逃げろー!!」
子供たちは慌てて回れ右して走り出した。
ーーその時だ。
「まぁーーーてぇーーーーーいっ!」
「?!」
遠くから大きな声が聞こえてみんなその場で振り返る。するとまさにこちらに向かって猛突進してくる者がいた。
十分な助走をつけたその子は少し手前で大地を踏みしめ高くジャンプした。
そしてそのまま飛び蹴りで椿が手に待っている大きな岩を蹴り飛ばし軽やかに着地する。
「うん!今の蹴り百点満点!」
1人でガッツポーズをして満足気に自画自賛している。
「弱いものいじめはこの芙蓉が許しません!」
ビシッと右手を上げて人差し指を立てるが、決めポーズにしてはダサい。
「芙蓉...またお前か。言っとくが、今回も先に喧嘩ふっかけて来たのはそいつらだぞ。」
外道丸は岩から降りて立ち上がった。
すると村の子供達がぶんぶんと首を横に振り反論する。
「違うよ芙蓉!俺ら何も悪くないぞ!」
「そうだ!こいつら乱暴者なんだ!」
椿は目を細めてギロっと睨みつけた。その威圧的な視線に子供達は肩を竦める。
その様子を見渡して芙蓉はため息をつく。
「私はどっちにも言ったのよ。外道丸たちはこんなくだらない挑発に乗るなんて心が弱い!
村のあんたたちはこの2人のこと何も知らないくせに罵ることしかできないなんて頭が弱い!みんな弱い!だから弱いものいじめ!」
「............。」
その場にいる全員が固まった。
ちょっと違う気もするが、まるで正論のように感じてしまう。
いつもそうだ。彼女には誰も勝てない。
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