愛と共に鬼の道を生く【改訂版】

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 芙蓉の誕生日まであとひと月となった2月のある日、芙蓉は1人で山にいた。 もとより病気がちな母が身重となり部屋にこもっていることが多いので、綺麗な花をプレゼントしようと思ったのだ。  しかしどうしたものか、花を探していたらどんどんと山奥に入ってしまい、ここがどこだかわからなくなってしまった。 辺りは段々と暗くなり、芙蓉は無事家に帰り着けるか不安になってきた。今頃母や義父が心配しているかもしれない。 「はぁ......。」 吐く息が白い。しかしその時、木々が開けた場所に小さな山小屋を見つけた。    芙蓉は迷わず中に入った。床の板はギシギシと音を立て、ボロボロの天井の板は今にも落ちて来そうだ。それでも外よりは幾分暖かい。 これ以上暗くなったら山には熊や狼が出る。道に迷ったことは明白だったので、明るくなるまで大人しくしていようと芙蓉は部屋の隅で丸くなった。 「このまま誰にも見つけてもらえないで凍えたら......」 柄にもなく弱気な言葉が出てきた。 死ぬかもしれないと思った瞬間、ふと芙蓉の頭の中にある人物の姿が浮かぶ。 ーーーその時。 ガタガタ。 「え?!」 小屋の入り口でドアを開けようとする音がする。   「こんな所に...獣...?」 小さい声で呟きながら芙蓉は柱の影に身を潜めた。胸の鼓動が早くなり手が震える。すると。 ーーガタン!ガラガラ! 「?!」 ドアが開いた瞬間、 芙蓉は入り口に立っている影を見て息を呑んだ。 「やっぱここだと思ったぜ。」 「な、なんで...?」 芙蓉の身体の力がついと抜けて膝から崩れ落ちる。 「...........................外道丸。」  現れたのは美しき外道丸。外は寒いはずなのに額には汗が滲んでいる。必死になって探してくれたのだとすぐにわかった。 芙蓉は信じられなかった。最後に「逢いたい」と願ってしまったから現れた幻影かと本気で思った。 「おい。大丈夫か?」 外道丸は芙蓉に近づくと、自分が着ていた衣をそっと芙蓉にかけた。 「怪我はねーな。」 その顔は笑わずとも、たまに見せる優しい顔。 緊張の糸がプツンと切れて安堵した芙蓉は外道丸に抱きついた。 「お、おいっ!」 こんな展開に全く慣れていない外道丸は狼狽した。 しかしすぐに芙蓉の身体が震えていることに気付く。 「芙蓉......。」 外道丸は衝動的に芙蓉を抱き返した。 壊してしまわないようにそっと。  2人はしばらくの間そうしていた。何も喋らず、ただ抱き合ったまま、ぴったりとくっついた身体から伝わる互いの体温を感じていた。 「ねぇ外道丸?あなたはその容姿で良かったと思ったことはある?」   芙蓉が外道丸の胸に顔を埋めたまま、独り言のようにポツリと口を開いた。 「ねーな。女達が見てるのは見た目だけだ。なのに恋文なんて送ってきやがって理解できん。文なんてもう見たくもない。」 「......そうなんだ。」 「そうだろどう考えても。」 「.........でもきっといつかは良かったって思う時が来るわ。きっとね。」 「芙蓉.........。」  外道丸は自分の腕の中にいる、小さく、儚く、そして強い存在に視線を落とした。芙蓉の腰に回した腕に少しだけ力が入る。 「そのいつかってのはさ、俺の容姿に特別興味もないどっかの誰かさんが俺のものになった時だろうな。」 「ーーえ?」  芙蓉は顔を上げるとゆっくり身体を離した。少し照れて顔が赤くなった外道丸は、今まで見たことのないくらいの穏やかな表情をしている。 「私実はね、いつも意地悪で口が達者で文のひとつも読んでくれない人を慕ってるの。」 外道丸は思わず吹き出して笑った。 「お前趣味悪いな。でも俺もお前のこと言えねーわ。」 外道丸がそっと芙蓉の肩に手を置く。 「あれ?」 その時、視線をずらした芙蓉はふと外道丸の手の甲に枝で切ったような擦り傷があることに気が付いた。 外道丸の息を呑むほど美しい血管の浮き出た手を、芙蓉はそっと包む。 そしてその傷に優しく口付けをしたーー。
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