共闘

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「お、おい。作戦は練ってあるんだろうな?」  カールが不安そうにクヌートの顔を覗き込む。 「ない。殺す以外の方法で、とにかく動きを封じることだ。斧を持っている奴は俺がやる」  クヌートはきっぱりと言い切った。更なる混乱を避けるため、スロやノーチェにはなるべく誰も殺さないように言われていた。 「無抵抗な人の脚を故意に折れるお前だ。できるはずだろ」 「クソ。やっぱり根に持ってるのかよ」 「それだけじゃない。……後で説明する」  クヌートは目の前にいる四人の顔を見た。どの男も恐怖と怒りに顔が歪んでいる。それは彼にとって見知った表情だった。彼らの必死な姿が、かつての自分や他の兵士たちと重なり、何とも言えない不快さが腹の奥からせり上がってくる。  男らのうち一人が斧を振り上げてこちらに猛突してきた。クヌートは自ら一歩前に歩み出ると、向かってくる男としっかり目を合わせた。  男はクヌートの脇腹を狙って力任せに斧を振るった。それを地面に伏せて躱し、空振りした男がよろめいた隙をついて鳩尾に膝を入れると、素早く斧を奪い取った。  だが息をつく暇もなく、もう一人がナイフを持って背後から突っ込んでくる。背中を刺されたらひとたまりもない。一瞬ヒヤリとしたが、何とかそれを斧で防ぐと、頭目掛けて振り下ろすように見せかけ右のつま先で思い切り金的を食らわせた。彼がまだ身体が小さく痩せこけていた時によく使った手だった。初めて暴力を振るった日の記憶が脳裏を掠める。  「うっ」という短い呻きを漏らし、男は雪の上にうずくまった。  クヌートがカールの方に目をやると、彼は鍬を持った中年の男相手に格闘していた。一人は既に殴り倒したようだったが、もう一人が手強かった。 「この野郎。その武器は卑怯だろ! 素手で掛かってこい!」  カールはそんなことを叫びつつも軽快なステップで巧みに相手の攻撃をかわしている。  やっぱり、とクヌートは思った。カールの身体つきや傷痕、指にできたタコを彼は気にしていた。自らを賞金稼ぎと言った時点で彼には安定した職がないことはわかっていた。家の中に吊るされたナイフや斧の手入れがいい加減だったことからして、狩猟が得意というわけでもなさそうだった。とすると、何か他の事に身体を使っている可能性が高い。例えば、見せ物としてろくでなし共の間で親しまれている殴り合いなどに…… 「おいお前、見せ物じゃねぇぞ! 足折ったこと謝るから助けろ!」  カールの叫びにクヌートははっと我に返った。背後から力ずくで男の動きを封じると、吸い込まれるようにカールの拳が男の顎にめり込んだ。 「俺たちの命が――掛かってるんだぞ」  地面に倒れた男はそれだけ呟くと、やがて意識を失った。
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